対談:LINE, Indeed - 億人を惹き付けるサービスから見る世界との戦い方 - 4

対談:LINE, Indeed - 億人を惹き付けるサービスから見る世界との戦い方 - 4

文:鈴木貴視 写真:依田純子(写真は左から出木場、田端氏、佐々木氏)

世界4億9000万人(※)が利用する「LINE」と月間で世界1億5000万人が利用する求人サイト「Indeed」。その世界との戦い方とは?ファシリテーターに「NewsPicks」編集長の佐々木紀彦氏を迎えた特別対談。

※2014年 7月31日時点

「LINE」の田端信太郎氏と「Indeed」の出木場久征氏、そして「NewPicks」編集長の佐々木紀彦氏を交え行われた特別対談も遂に最終回。トークのテーマとして設定した「グローバル」「テクノロジー」「社会の課題」における、世界での戦い方とは。

佐々木 この対談もいよいよ終盤となりましたが、設定した3つのテーマで更にここを聞いておきたい、ということがあれば是非。

出木場 ちなみに、今「LINE」には何人ぐらいエンジニアがいるんですか?

田端 今、社員全体で790人で、広くいえばその中の約4割はエンジニアです。サービスがブレイクした印象からすると、採用にもっとたくさん集まってくると思ったんですが。

佐々木 でも多国籍ですよね。エンジニアは日本人である必要ってそれほどにないじゃないですか。

田端 そんなにないですよね。比率的に外国籍の社員が約20%くらいなので、まだそこまで多国籍になってないですねけど。

佐々木 多国籍の人をマネジメントするにあたり、何か気に掛けてることはありますか?

出木場 たまに日本に帰ってきて色んな会社の社長さんと会うと「グローバルに出ていきたい」と言われるんです。理由はやっぱり、日本の技術やサービスを海外へ出したい、と。ただ、それはすごく難しいトークだなと思っていて、「日本の」とか「日本人の」とか「日本のサービスが」となると、既にグローバルの概念から外れちゃうので。僕からすると、今1100人くらい社員がいますけど、日本人は10人くらいかな。本当にグローバル企業をつくろうとするなら、そういう事を実は言っちゃいけないんだと思います。

田端 そうなんですよね。

世界に行くためには、適度な無謀さと適度な素人加減が必要

出木場 実際には、僕らの次の世代にとってリアルになるのかもしれないです。僕が本当にラッキーだったのは、最初にファウンダーと話して「これはアメリカの会社だ、アメリカのテクノロジーをどこかに持っていくんだ、ということじゃない」というのを聞けたこと。すごくシンプルなんですが。

佐々木 そういう意味では、「LINE」はもともとNAVER Japanが開発し、NAVERはそもそも韓国で創業した企業。だからこそ成功できたところはやっぱり大きいですか?変にピュアに日本な会社じゃない。

佐々木氏

田端 最初から、いい意味で「日本のため」という発想はあんまりないです。さっきの出木場さんの話でいうと、会社の国籍がどうこうというよりは、ミッションありきな気がしていて。最初から地域展開をしていたので、おのずからそうなっていったというか。

出木場 実際、難しいところでもあるんですけどね。

田端 今までの日本企業は、物の輸出モデルだったと思うんです。サービス業じゃないから、現地で現地の人を雇うというのもそんなに多くなかったし、マネジメントというものが、ちょっと横暴な言い方するとシンプルだったというか。でも今、頭脳ボードのサービス業を世界各国でやるのに、どんな人種だろうと関係ない。「Indeed」が実施しているカントリーマネージャー(※注1) でも思ったのは、文脈なども含めて現地の人間をトップにしていかないと、本当の意味で難しいと思うんです。その上でどうやってグリップするか

出木場 個人的には、適度な無謀さと適度な素人加減がやっぱり必要というか、もうそうするしかないんだろうな、と思ってて。僕なんかもう、37〜38歳で全く英語もできないのにアメリカに行って(笑)。

田端 それ、送るほうも送るほうですよね(笑)。

出木場 でも僕は、それがリクルートの良さだと思う。「世界で一番のオンラインHRの会社にしたい」と社長の峰岸に言ったら、「じゃあやってみれば」と。そこは非常にシンプルで、確かに無謀きわまりなかったけど、今となってみたら伸び率もいいですし、そのときのエクゼクティブチームも1人も辞めてない。それは、僕が"優秀じゃない"からこそ、彼らが1人も辞めないように一生懸命やってくれただけですが。色んな会社が難しい賭けをしたんでしょうし、色々なものが日本とグローバルではギャップがあるとは思いますけどね。

プロダクトから漂う香りをユーザーが感じてくれないと意味がない

佐々木 さっき田端さんから、ソーシャルという切り口からいっても、世界で人を引き付けるようなミッションを持つのは結構大変、というお話がありました。日本企業は、まだそのミッションを掲げられてないのかなと。我々も「世界一の経済メディアを目指している」と言ってますけど、世界一になる=金メダル取ります、であってミッションじゃないと思うんです。

田端 ベクトルの長さの話であって、向きの話じゃないですよね。一番長いベクトルを目指してるだけで。

出木場 「LINE」のミッションとかビジョンって何ですか?

田端 まだ言語化されてないですね。その話もなかなか深いんですけど、そもそも言語化すべきなのかって。

出木場 例えば、「NAVER」はあるんですか。

田端 検索エンジン的な意味で "情報を整理する" とか。「NAVER」と「Google」の違いは、「NAVER」の場合は検索エンジンの検索結果自体を中でなるべく抱え込むようにしてて、逆に言うと「Google」はブロックしたからそこで勝てているんです。そういう意味で、だんだんシェアが埋まっていくと抽象度が上がりますよね。

田端氏

出木場 色んな事業が増えていきますからね。

田端 「LINE」はそれで言うとユーザーオリエンティッドだし、基本はエモーションというか、個人同士のエモーショナルなコミュニケーションをどうやって活性化していくんだ、みたいな所が一番の鍵。例えば"既読"という機能があるじゃないですか。あれ迷惑だからやめてくれって言われることもあるんんですけど、そもそも「LINE」の哲学でいうと、既読になったことが伝わるとまずいような取引先や上司とはつながってなくていいと思うんですね。家族や友人、そういった気を使わなくてもいい親しい間柄の人と使ってください、というのがそもそもの哲学なんです。

佐々木 「LINE」って、今おっしゃったようなことが言語化されてなくても、世界観とかミッションは何となくつかめますよね。

田端 言語化して壁に張っておけばいい、というものでもないと思ってて。やっぱり、プロダクトから漂う香りをユーザーが感じてくれてないと意味がないと思いますから。

世界市場におけるミッション、新しい挑戦と新しい価値の創造

佐々木 リクルートは、日本だとどんな会社かというイメージは伝わってくるんですが、世界に出たときのミッションをどういうものにしていくんでしょうか?先ほどの世界観の話とも重なるかもしれないですけど、どういうビジョンなんでしょうか。

出木場 「Indeed」はありますよ。各会社あると思います。それでいいんじゃないですか、って言っちゃダメか(笑)。基本的には"新しい価値を創造する"になるのかな。僕もそのために一生懸命やってますから。

佐々木 先ほど田端さんがおっしゃったように、何かちょっと挑戦的なこともやっていたほうが、そういうイメージが自然と伝わるんですかね。

田端 そうかもしれないですね。

出木場 そう思いますよ。良いか悪いか分からないけど、例えば僕が「Indeed」のマネジメントする上で大切にしているのは、リクルートと上手く距離感を保つこと。僕が思うリクルートの本当の強みは、各リーダーがいてそのリーダーの想いに任せること。悪い言い方をすると一貫性がないし方向性が強く出ていなくて、色んなことやっているように見える。でも、良く言えば、僕のように本当に任せてもらってると思いますし、会社とすごくフェアにやらせてもらえているんですよね。実際いつ辞めてもいいと思っていますし(笑)。でもやっぱり、面白いことやらせてもらえるならここにいるよ、と本気で思えますから。

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佐々木 出木場さんみたいな人や、「Indeed」みたいな会社がどんどん出てきたらもっと面白くなりますね。

田端 人事としても、それが成功体験として財産になって連鎖しますよね。何年かしたら、出木場さん自身が次の世代にやられたりして(笑)。

出木場 その世代に「出木場さんもやったじゃないですか!」って言われたり(笑)。でも、辞められないですよ、だっておもしろいもん。海外の小さい会社が段々大きくなっていくのを感じられるなんて、最高におもしろいですから。

※注1...カントリーマネージャーの会話【第2回対談】
「Indeed」では、各国の営業所にローカルのトップ=カントリーマネージャーを置き、その国における適正なサービス展開や改善、マネジメントを任せている。

プロフィール/敬称略・名称順

出木場久征
リクルートホールディングス執行役員 兼 Indeed CEO&President

旅行予約サイト「じゃらん」を始め、数々のメディアのネット化を歴任。2009年に旅行・飲食・美容・学びなどを管轄するCAP推進室室長兼R&D担当に就任。11年に全社WEB戦略室室長、12年4月に執行役員を経て、現在はリクルートが買収した求人サイト、米国IndeedのCEO&Presidentに就任。

田端信太郎
LINE株式会社 上級執行役員 法人ビジネス担当

NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げ、R25創刊後は広告営業の責任者を務める。その後、ライブドアに入社し、livedoorニュースを統括。ライブドア事件後には執行役員メディア事業部長に就任し経営再生をリード。さらに新規メディアとして、「BLOGOS」などを立ち上げる。2010年春からコンデナスト・デジタルへ。「VOGUE」「GQ JAPAN」「WIRED」などのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年6月、NHN Japan株式会社に入社、執行役員に就任。広告事業部門を統括。2013年4月、NHN Japan株式会社の商号変更により、LINE株式会社執行役員に就任。2014年4月、LINE株式会社上級執行役員 法人ビジネス担当に就任。現職。

佐々木紀彦
ユーザベース執行役員 NewsPicks編集長

ユーザベース執行役員 NewsPicks編集長。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。09年7月より復職し、『週刊東洋経済』編集部に所属。『30歳の逆襲』、『非ネイティブの英語術』、『世界VS中国』、『ストーリーで戦略を作ろう』『グローバルエリートを育成せよ』などの特集を担当。著書に、『米国製エリートは本当にすごいのか?』、『5年後、メディアは稼げるか?』

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