シリーズ - 海外を見る ベトナム「ホーチミン」

シリーズ - 海外を見る ベトナム「ホーチミン」

インタビュアー:辻 貴秀(RGF HR Agent Vietnam Co., Ltd. 拠点長) 企画:榊原 宏一(SEA Planning Group MG) 文:MeetRecruit編集部

IT化、プラットフォーム化が進み、グローバルビジネスが盛んになってきた昨今。日本企業に限らず、海外展開を当初から念頭に据えたビジネスを展開する企業も多い。 ただ、現地にいるからこそ分かることもある。

前回の記事では、伊藤園のインドネシア・ジャカルタ法人のPT ITO EN ULTRAJAYA WHOLESALE President Director 宮本昌郎氏に現地での戦略や、日本法人との関係性などについて伺った。

今回は、アジアを中心に、海外での現地採用・グローバル人材採用を支援するリクルートの海外法人ブランドRGF(リクルート・グローバル・ファミリー)のRGF HR Agent Vietnam Co., Ltd. 拠点長 辻 貴秀が、現在ベトナムのホーチミンにて、ベトナム初となる地下鉄開通プロジェクトに携わる日立製作所 ホーチミン1号線プロジェクト事務所 Contract Control Manager 樽家 彰宏氏に現地の今、を伺った。

ベトナムにおける初の「都市交通鉄道」

樽家彰宏氏

日立製作所 ホーチミン1号線プロジェクト事務所 Contract Control Manager

「今回受注した「ホーチミン1号線」は、地下区間を含む、ベトナムで最初の都市交通鉄道のプロジェクトです。全長が約19.7キロ、そのうち地下区間が2.2キロ。駅舎の数が全部で14駅、そのうち地下が3駅、高架が11駅です。 始発がホーチミンの真ん中のベンタイン市場から、市内を北東に行って、スオイティエン・バスステーションというところまでを結ぶ都市交通鉄道になっています。
我々日立はCP3(ContactPackage3)と言いまして、車両、信号設備、通信設備、電力供給設備、券売機等の設備一式を受注しました。我々が受注したCP3のパッケージには全部で11のサブシステムがあり、これらをシステム・インテグレーションして都市交通鉄道を建設します。車両、信号設備、通信設備、ホーム柵、架線(電車に電気を供給する設備)、軌道、券売機・改札機、設備診断システム、駅の路線図やトイレ等の看板・標識、変電設備、車庫設備(車両の保守設備)です。 車両と架線と券売機・改札機は「目に見える日本の援助」を目的として、原産国は日本という入札上の指定がありました。 」

ベトナムには現在ディーゼルで走る汽車しか、鉄道網はありません。またその汽車は、都市交通ではなく南北に移動する大陸縦断鉄道ですので、日々の仕事や生活のため、都市内を移動する手段は主にバイク(80%~90%の人がバイクで移動している、というデータも!)、や車が賄っています。

今まで電車がなかったのは、電気で動く電車を走らせるには、変電設備、架線設備などの周辺設備が必要であり、大陸横断鉄道を改修するには多大な資金が必要だったという点が大きそうです。

樽家彰宏氏

日立製作所 ホーチミン1号線プロジェクト事務所 Contract Control Manager

「我々日立にとっては、今回のように都市交通鉄道設備一式をまとめるというのは初めてのプロジェクトでしたので、チャレンジングでした。もともと車両も作っていますし、信号も作っていて、これまで日本国内外に車両だけ、または信号を納めるだけという案件は受注したことがあるのですが、設備一式を収めるプロジェクトは初めてだったので、入札資料のとりまとめからはじまり、実際にプロジェクトが始まってからはいろんなサブシステム間のインターフェイスや工程管理など、我々が今まで経験したことがないようなことまで日立が担当することになったので、そういう難しさは感じているところです」

今回プロジェクトが始動してから大変だった点として、インフラを作る上での官公庁との折衝なども挙げていらっしゃいました。比較的トップダウンよりは合議を大切にする性質があり、なんと入札は2010年12月、契約されたのは2013年6月、と、足掛け2年半粘り強く進められたのだそうです。

1本の線路だけでは、市民がどれだけ利便を享受出来るのかわかりませんが、今後11路線まで拡大する予定があるようで、初の都市交通網として「ホーチミン1号線」がベトナムのモーダルシフト(貨物や人の輸送手段の転換)の起爆剤になる、と仰っていました。

中国に近い? ベトナム料理と一気飲み。「ベトナム」という国の文化。

樽家彰宏氏

日立製作所 ホーチミン1号線プロジェクト事務所 Contract Control Manager

「料理に関しては、他の東南アジア料理に比べるとあっさりしていて、辛さもクセも強くありません。野菜も多く入るのでヘルシーですし、中国料理に近い感じはありますね。
中国文化に近しい点で言うと、もう一点「一気飲み」の文化があります。他の東南アジアの国ではあまり見かける事はなかったので、比較的中国文化を取り入れた感じになっているのかな?と思います」

ベトナムにもファミリーマートやイオンが進出し、日本の食材も手に入ります。家族で一緒にベトナムに駐在されている樽家さんも、食材に関する不便さは感じていない、とのこと。

ベトナムもいわゆる「飲みニケーション」のような文化がありますが、その中で他国と差が出てくるのは、その国々の特色を感じられる一つのポイントかもしれません。

不真面目なのでは?という思い込み。実際に見てみると勤勉で真面目なベトナムの方々

樽家彰宏氏

日立製作所 ホーチミン1号線プロジェクト事務所 Contract Control Manager

「ベトナムの方々は基本的にまじめですね。最初は、日中に小さい椅子に座ってお茶を飲んでいたり、というイメージがありましたが(笑)少なくとも僕らのプロジェクトで働いてくれているベトナム人はまじめで勤勉、一生懸命です。男女の差はないですが、向き不向きがあるので、結果的にはエンジニア系は男性、事務的は女性が多いですね。みんな一生懸命まじめにやってくれています。我々が一緒に働いている人は40代~50代が少なくて、20代~30代の社員がほとんどです。求人をかけても来る人は若い人ばっかりですね」

以前発表した「あなたはどの国に共感する?アジア5カ国の若手ビジネスパーソンの職業観の違い」及び、出展元であるリクルートワークス研究所のデータの中にもあったように、ベトナムは戦争の影響が現在の人材市場に大きく影を落としています。ちょうどビジネス上で先輩となる40代前後の層が不足しているベトナムでは、若手のスキルアップに向けた教育研修の機会が求められている傾向にあります。そんな彼ら / 彼女らは私から見ても非常に勤勉で真面目な人が多い、と感じています。

樽家彰宏氏

日立製作所 ホーチミン1号線プロジェクト事務所 Contract Control Manager

「現地採用を行う上で、一番重要なのはいい人材を採用するということです。我々はCV(Curriculum Vatae:日本における職務経歴書のようなもの)の精査から一次面接まではRGFさんの窓口になっているわれわれのマネージャーに任せていて、彼の目利きが非常に優れているので、推してきた人間は基本的に信用しています。
一次面接で日本人が出てきてああだこうだという会社さんもあると聞きますが、我々は一次面接でローカルスタッフがベトナム語でじっくりと面接し、プロジェクトのカラーや空気にあっているかを見ます。能力や人柄、プロジェクトのカラーにあっているかをローカルスタッフが見てくれるので、最終面接に来た人間は誰を採っても問題ありません。ローカルスタッフが推薦した人材を採用するというのが一番のキーポイントです」

採用方法に関して、各社で違いはありますが、前回のPT ITO EN ULTRAJAYA WHOLESALEでも人事に関してはローカルでTOPを置いている、という話をされていましたね。
やはりその土地土地の考え方や人が持っているスキル、そしてアサインしたい職務を考えると、ローカルでの視点、というのも重要な基準になるのだと思います。

ただ、それにはそのローカルスタッフ自体に「会社としてのミッション・考え方」「人として望むこと」「必要なスキル」などをしっかり共有しなければいけません。そういった意味では、やはり現地法人運営における一番重要な事は、我々自身がその国の事をよく知り、法人を任せられるだけの、有能なスタッフを雇えるかどうか、にかかっているのかもしれません。

プロフィール/敬称略

樽家 彰宏
日立製作所 ホーチミン1号線プロジェクト事務所 Contract Control Manager

1968年生まれ 94年大阪市立大学卒業 日立製作所入社。94-2004年 鉄鋼プラントの海外営業に従事。04-13年 交通システムの海外営業として主に東南アジアを担当。2013年8月より ホーチミン1号線の履行のためホーチミンに駐在。入社以来、海外営業に従事しており、海外営業のプロフェッショナルとしてのキャリアを積んできたが、 ホーチミン1号線プロジェクト事務所では、営業ではなく契約管理・総務・人事・経理なども担当することになり、日本側の支援を受けながら日々新しい業務に挑戦している真っ最中。

辻 貴秀
RGF HR Agent Vietnam Co., Ltd. 拠点長

1984年生まれ 2007年に日系製薬メーカーに入社し、MRとして勤務後、2011年にRGF中国に参画。 中国の上海、深セン勤務を経て、RGFベトナムの拠点長として着任。日本とベトナムのビジネス拡大に奮闘中。日系企業の進出が活発なホーチミンを中心に、製造業からIT・BPO、サービス系企業まで幅広い業種の企業を対象に、ベトナム人、日本人の人材紹介事業の展開に従事している。

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