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世界から「スタートアップ国家」として注目を集めるイスラエル、その隆盛の理由とは?

グローバル

文:佐藤ゆき

中東と欧州の狭間にあるイスラエル。人口800万人という小国ながら多数のスタートアップを生み出す「スタートアップ国家」として世界に知られている。今年Compassが発表した「The Global Startup Ecosystem Ranking 2015」 においても、イスラエルの人口第2位の都市テルアビブは、スタートアップ都市ランキングで世界5位にランクインした。米国以外の都市としてはトップだ。

小国ながら、なぜイスラエルは多数のスタートアップを生み出すことに成功しているのか? 他のスタートアップのハブ都市との特徴の違いを挙げながら、その理由を探ってみたい。

国外からの投資が集まり、グローバルなマーケットに進出するイスラエル

前掲のレポートによれば、3100〜4200のスタートアップが存在するというテルアビブ。その数は世界で7番目、欧州ではロンドンに次いで2番目の大きさだ。

イスラエルは従来より、エンタープライズ向けITソリューション、セキュリティ、ネットワークという分野での技術開発が盛んな歴史がある。その歴史を遡ると、1980年代。通信サービスを提供する企業に対してソフトウェアを提供するコンバース・テクノロジー、当時はプロセスが複雑だったソフトウェア開発を効率化できるシステムを開発したマーキュリー・インタラクティブ、通信・メディア業界の企業向けにソフトウェアを開発するアムドックスといった企業が設立され、世界市場で大きなシェアを築いていった。こうした成功企業は、90年代後半に立ち上げられていったソフトウェアスタートアップを資金面などで支援する役割を担った。さらに、ここ数年ではアドテクノロジー、eコマース、ビッグデータ、SaaSといった分野も成長を見せはじめている。

イスラエルのスタートアップシーンの特徴の一つとして、国外からの投資の多さが挙げられる。国外からの投資が集まる都市という点ではシリコンバレーに次いで、テルアビブが世界で2位にランクインしている。スタートアップへの投資のうち国外からの割合は47%と、欧州の平均よりも38%も高い。長年にわたる盛んな技術開発で、国外からの高い評価を地道に築いてきた点が背景にある。

また、グローバルなマーケットにリーチしているという点も特徴的だ。グローバルスタートアップエコシステムレポートの調査結果によれば、海外の顧客の割合は74パーセントを占め、シリコンバレーの36パーセント、欧州平均の56パーセントを大きく離す。

テクノロジーを活用してインフラと軍隊を発展

スタートアップ国家として注目を浴びる以前からも、イスラエルはテクノロジーの研究開発に大きな投資をしてきたわけだが、その背景として地理的条件と隣国との関係性が大きな影響を及ぼしていたことは見逃せない。

イスラエルは天然資源が乏しい土地で、水資源の不足を補うために淡水化技術を発展させるなど、その発展のためにはテクノロジー開発が不可欠であった。1950年代には、労働・生活コミュニティ「キブツ」において近代的な点滴灌漑の技術が生まれ、大きな成功を収めて世界に広がっていった。

また、イスラエルの通信、セキュリティ研究の発展において重要な役割を持つのが軍隊だ。イスラエルではほとんどの市民が大学に進学する前に軍隊に参加するが、軍隊において多くの市民がテクノロジーに関する教育を受ける。アラブ諸国の諜報活動(シギント)を担当する「8200部隊」は「イスラエルで最も影響力をもつインキュベータかもしれない」とコメントする声すら上がっている。

テクノロジーの力を駆使して土地を開拓し、軍隊の力をつけ、国家としてのシステムを築いていく。それが、同国のテクノロジーと起業家精神に対する熱意を育んでいった。

また、こうして自立した国家の確立を目指してきたからこそ、市民には起業家精神が根付いている。「イスラエルでは、子供が大企業のブランドを手にしていると、親が子供になぜ自分の会社を始めないのかと聞く」と言う者もいる。それだけ起業に対するイメージが良く、肯定的に後押しされる社会だからこそ、若者はどんどん起業にチャレンジする。

海外の大手テック企業とスタートアップの共存

また、技術立国としてのイスラエルに対する国際的な高い評価は、国外の大手企業の関心を集めてきた。同国に拠点を置く大手テック企業は絶えない。AppleやGoogle、Facebookといった企業が開発センターの拠点をイスラエルに置いているが、イスラエルのスタートアップとの提携や買収、地元の優秀な人材を巻き込むことが目的だ。

イスラエルの投資家Yossi Vardi氏は、同国のスタートアップシーンについて「小規模でスピード感があり、回転力の早いスタートアップと大企業が共存している。迅速な買収の結果、イスラエルの経済は成長する資本、市場へのアクセス、戦略的な利益、経営のノウハウと技術的な支援という点で大きな利益を得ている。そして、買収を実現した起業家は、すぐに新しい会社を設立していく」とコメントする。

高い技術力と起業家精神を元にスタートアップを立ち上げ、事業を成長させて、大手テック企業に売却。そして売却によって得た資金を元に再度スタートアップを立ち上げる。スタートアップと大手企業が共存するイスラエルでは、こうしたサイクルを可能にするシステムが確立されている。

アジアからの注目も高まる

イスラエルのスタートアップに注目する企業は米国企業にとどまらない。同国への注目は、今やアジアにまで広がりつつある。昨年9月には中国のYuandaエンタープライズグループが、ハイテク農業分野への進出を狙って、スマート灌漑・施肥システムを開発するAutoAgronomeを2000万ドルで買収した。同年12月には中国のeコマース大手アリババがQRコードを生成する技術を開発するVisualeadに出資。アリババにとっては初のイスエラル企業への出資となった。

韓国のサムスンは「Runway」というアクセラレータプログラムをイスラエルでローンチさせ、地元スタートアップとの提携を模索する。日本もまた、サムライインキュベートが昨年イスラエルに拠点を構えた。今年8月には、「Accelerate Program Israel」を実施する日本企業の募集を開始し、日本とイスラエル間における提携や投資の促進を目指す。

サムライインキュベートのメンバーと現地起業家・投資家

テルアビブの Samurai House で、ミートアップに参加するサムライインキュベートのメンバーと現地起業家・投資家ら。写真提供:サムライインキュベート

 

こうした国外の大手企業や投資家のイスラエル進出によって、スタートアップのエグジット事例も増加しつつある。2013年には、GoogleがカーナビゲーションアプリWazeを約10億ドルで買収、またIBMがサイバーセキュリティソフトウェアのTrusteerを買収したニュースが注目を集めた。昨年8月には、無人自動車向けのソフトウェアを開発するMobileyeが米国でIPOをし、8億9000万ドルを調達した。

その勢いは、現在進行形で続いている。今年1月には、Amazonがデータ向け通信システムを開発するAnnapurna Labsを買収した。イスラエルの経済紙Globesの報道によると、買収や合併によるイスラエルスタートアップのエグジット額は今年の第3四半期までで38億ドルに上るという。これは、2014年の額を既に5億ドルも上回っている。

より多様に、よりオープンに

国外からの投資も多く、グローバルなマーケット進出にも成功し、海外企業の買収例も増えてきたものの、一方で国内のスタートアップの人材という点では多様性に欠けていた。国内のテック系人材が豊富であるという点、またビザの発行ルールが厳しいという理由から、海外の人材がイスラエルのスタートアップで働く例は、シリコンバレーやベルリンなど人材の多様性に富む他の都市と比べると少なかった。

だが、その点も変化しつつある。テルアビブをグローバルなスタートアップ都市にすることを目的とした団体Tel Aviv Globalの設立者Hila Oren氏は、ベルリンやロンドン、パリ、ニューヨークなどの都市との起業家同士の交流の促進、コワーキングスペースの開設などを通して、グローバルなコラボレーションが生まれる機会を作ることに努めている。また、今年10月には新たに「イノベーションビザ」というプログラムをスタートすることが発表された。選出されたスタートアップを対象に、外国人の従業員に2年間のビザを与えるというものだ。こうしたイニシアチブによって、イスラエルのスタートアップ内部にもより多様性がもたらされるかもしれない。

国外の才能と企業を巻き込んで、「スタートアップ国家」イスラエルがどのようなイノベーションを生み出していくか。これからもその動向が見逃せない。

PHOTO BY israeltourism(CC BY-SA)

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