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経験や勘ではなくデータで効率化を〜テクノロジーでシフトする漁業のあり方の未来

グローバル , スタートアップ , ヨーロッパ

文:江口晋太朗

私たちの食生活に当たり前に存在する漁業の現場にフォーカスし、テクノロジーを通じて変化しつつある漁業のあり方についてまとめた。

ITやテクノロジーの進化は、ウェブサービスだけとどまらず、ものづくりや非IT分野においてもさまざま形でデジタルシフトを起こしている。この連載シリーズでは、ITによって変化を起こしているさまざま分野を掘り起こしていく。

四方を海で囲まれた島国の日本。海辺や水辺が身近にある生活のなかで、昔から魚を食べて育ってきた。1970年代までは、戦後の食糧難でタンパク質が足りないために漁業が発達。100万人以上もの人たちが漁業に従事し、同時に漁獲した魚を輸送しやすくするために冷凍技術を発達させてきた。食料獲得のニーズから、新たな漁場を求めて沖合漁業などその漁業の範囲や漁獲量を増やしていった。

しかし、海で採れる魚は無限にあるわけではない。生態系が存在する有限な資源だということを忘れてはいけない。当時はそうした限られた資源に関する意識がなく漁獲量を管理することがなかったため、乱獲などによって海の水産資源が次第に枯渇し始めてきた。世界規模で海の資源に関する議論が高まってきたと同時に、持続的に利益を出せるような漁業の仕組みづくりが求められるようになった。

そうした課題に対して、近年ではIT技術などテクノロジーを通じたソリューションが見いだされている。

ITによるオートメーション化とモニタリング

海に関連した教育機関としては、海洋系の大学が知られている。各地にある海洋系の大学では、海に関連した専門分野の教育や研究がなされており、元々は商船大学や水産大学を起源にもつ。そうした中、2000年に設立した公立はこだて未来大学では、「マリンIT・ラボ」と呼ばれる研究室を配置している。マリンIT・ラボでは、研究者と漁業者が一体となって、近未来型の水産業を実現する情報技術の研究を行っている。マリンIT・ラボ所長の和田雅昭教授は、水産メーカーでの経験から漁業現場におけるIT化の必要性を感じ、大学教授となった経歴をもつ人物だ。

公立はこだて未来大学のある函館市が位置する渡島地方は、2市9町のなかに60以上もの漁港が存在する、北海道でも有数の漁業生産地。地元名産の「いかめし」で知られているように、イカ釣りは函館地方の漁業の中心産業といえる。

そのなかで、和田氏が地元漁業と取り組んだのが、イカ釣り舟のオートメーション化だ。小型舟に10数台の機械を積み、集中制御によって一人で操作することができるという。釣り機の運転情報はモニタで確認することができ、機械ごとに漁獲量もひと目で把握することができる。

今後は、どの漁業でどんな水深で、どのくらいの水温のときにどれだけの漁獲量があったかというデータを蓄積し、分析するビックデータ分析を行うことで、高い確率で効率的に水揚げできる場所や時間を推測することができる。

漁船

可視化、記録化による漁業の効率化

和田氏は2003年から北海道の日本海側にある留萌(るもい)市でナマコ資源保全のIT化実験も行ってきた。その一環として、漁師にタブレット端末を持たせ、ナマコ資源を効率的に計画的に漁獲するために漁獲量を記録するアプリを開発した。

これまでは、ナマコは漁獲量の調整をせず、取り放題だったため漁師たちが早いもの勝ちで漁をし、ナマコがなくなったら終わり、といった漁業だった。しかし、早いもの勝ちとなることでナマコそのものが未成熟なまま漁獲することで単価が低下することもある。計画的な漁獲は、資源を残すだけでなく、漁獲したナマコの単価や市場への流通の需要に合わせることで単価の高い漁を行うことができる。

デジタル操業日誌」アプリでは、ナマコ漁の時間や回数を記録し、集計。船のうえでも入力できるようタブレットによるシステムを導入した。リアルタイムで資源管理を行いながら、海上での漁船の航路、漁業位置を集計しデータ化することで、船の操作における燃料の効率化なども図っている。

つまり、IT化によって漁師の勘を客観的な数値データで分析可能にすることで、データの集積と可視化による漁業の効率化を図るという、これまでの経験と勘に頼っていた漁業のやり方から、考え方そのものをシフトさせようとしている。

イカ釣りのオートメーション化やナマコの記録といった可視化だけでなく、魚群探知のIT化もある。静岡県熱海市の網代漁業では、定置網漁業の魚群探知機のモニタとしてタブレット端末を活用している。

定置網に魚探が設置されており、網の中にどれくらいの魚が引っかかっているかの情報を3Gの通信モジュールを経由してタブレット端末に送信し、魚探の様子をリアルタイムで把握することができる。

端末にインストールされた「定置網モニタ」アプリで、いつでもどこでも網に魚が入っているかどうかチェックでき、網代漁業の従業員はだれもが魚探の情報にアクセスすることができる。

漁獲の状況が可視化できるため、まだ魚が少ないときには陸で設備の修理などの作業に集中でき、大漁が見込めるときには氷を多く積んで出船するなど、状況に応じて作業準備や空いている時間の有効活用をすることができる。

これまでの漁業では、獲れた分だけをそのまま出荷していたことから、漁獲量が変動するなど安定した魚の供給量を保てなかった。しかし、モニタを通じてリアルタイムで管理することで、出荷量も調整でき、管理を通じて市場への供給量も調整することが可能だ。限りある水産資源を保護しつつ、利益率の高い取り組みができる。

これまでにも、魚探を検知して無線機を使い、陸にある事務所に連絡する方法もあったが、海上と陸とを結ぶだけの専用機としての導入コストの問題もあった。しかし、ITを活用し安価な端末や仕組みをもとにコストを抑え、かつタブレットで直感的に操作できるUIなどのメリットによって次第に導入が広まっている。

取得した情報をデータベースとして機能させることで、天気や気温、潮がどういった状況になると大漁になるのかを蓄積し、次に活かすことができる。これまでの経験や勘による定置網をチェックする漁から、データとモニタをもとに漁業のやりかたそのものが変化してきているのだ。

IT化で、飲食店の現場に多様な生鮮食品の仕入れを実現するサービス

漁業の現場における効率化や可視化だけでなく、流通の世界においてもITによる変化が起きている。東京に拠点を置く八面六臂株式会社(以下・八面六臂)では、ITによる鮮魚を中心とした食材流通の仕組みを構築し、飲食店へ多様な食材を提供している。

八面六臂

八面六臂では、全国各地の市場や生産者から魚や野菜などの食材を仕入れ、中央市場だけでは揃えることのできない多種多様な食材を用意し、オンラインでの販売を行っている。

今まではFAXで行われていた生鮮食品の受発注を、オンライン化することで、リアルタイムに在庫状況を顧客側へ反映できるようになり、FAXでは売りづらかった入荷数の少ない珍しい魚なども積極的に飲食店へ提供できるようになった。

2010年のサービス開始当初は、飲食店へのデジタルデバイスの普及率が低かったため、注文用にタブレットを配りそこから発注をもらっていたが、現在ではスマートフォンが普及したため、契約する飲食店は、自分のスマートフォンなどから「必要なとき」に「必要な食材」を「必要な量だけ」仕入れられるようになっている。

また、オンライン注文であることは、飲食店への迅速な食材提供にもつながっている。すべての発注情報がデータで蓄積されるため、八面六臂はそのデータを解析し、事前に発注量の予測をたてることも可能となる。

さらには、販売だけでなく配送網の構築にも力を入れている。生鮮品にとって配送での鮮度の低下は最も避けねばならない問題だ。それに対して、八面六臂では東京・埼玉・神奈川・千葉の一都三県に対して自社配送拠点から直接飲食店へ食材を届け、生鮮品の生命線となる鮮度を担保してくれている。

漁協から市場、流通業者といったさまざまなステークホルダーを通していたこれまでの鮮魚流通だが、ITによってこの構図が変革せざるをえなくなるのかもしれない。

デジタルシフトで変化する漁業そのもののあり方

海外では、漁業の現場で水産資源保護を行うだけでなく、同時に最適なタイミングで漁獲を行うために最先端のテクノロジーを駆使し、市場の需要と供給に応じて高価格な魚の輸出や販売を実現している。そのため、海外では漁業は短時間の労働で高単価な仕事を生み出すようになっている。

対して、日本ではまだまだ労働単価の高いものという認識は低い。いままで有限な資源という点を意識せず、乱獲など持続性をあまり意識しない漁業をつづけ、需要と供給を踏まえ漁獲量の調整をするといったことなく、獲れたものをその場で売る発想だった。

時には、乱獲によって成長途中の魚を漁獲するなど自ら単価を下げた製品を市場に流通させている、などの指摘もあった。今後は、より良質な魚の獲得を通じて、長時間低賃金労働から、短時間高賃金労働へのシフト、たくさん獲る漁業から、質で勝負する漁業にシフトするための取り組みが求められる。漁業に対する考え方を改めるためにも、テクノロジーによる漁業のデジタルシフトは重要さを増してきている。

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