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対談:巻口隆憲×麻生要一 新規事業を生みだし続けるリクルートの仕組み

Recruit , テクノロジー , 働き方

文:小山和之 写真:斎藤隆悟 / 佐坂和也

多くの企業において近年注目を集めている、新規事業提案制度。リクルートにおいては1983年より新規事業提案制度『RING』を開催し続けており、2014年からは『New RING ‐Recruit Ventures』としてIT業界への潮流に対応し変化を続けている。そんな『Recruit Ventures』を牽引するMedia Technology Lab.室長の麻生要一氏と、リクルートグループのコアコンピタンスであるナレッジを明確な形式知にして、グループ内の人材に伝搬・浸透させる組織であるリクルート経営コンピタンス研究所 室長の巻口隆憲氏が、リクルートならではの新規事業創出を語る。

ボトムアップの文化が新規事業を生みだす

ー 新規事業開発制度は多くの企業に存在していると思いますが、リクルートにおける新規事業開発のキーとは何なんでしょうか。

巻口隆憲(以下・巻口) まず、うちの会社が特徴的なのは、すぐ「お前はどうしたい?」と聞くこと。そう聞かれても、普通は「どうしたいも何もない」という人が圧倒的に多いはずです。リクルートの社員ならすぐ答えられるかというと、そうではないと思うんです。ただ、本当にたくさん「お前はどうしたい?」と聞かれるので、考える機会は非常に多い。若いうちは「成長したいです」でいいと思いますが、何か大きな仕事がしたいとか、人を巻き込んだ仕事がしたいとか、いろいろ考えてやっていくうちに、「お前はどうしたい?」という言葉が、世の中にこんなことを...というように、社会課題の解決に行き着く段階があるんです。その階段をのぼる回数が多いことが、実はリクルートの特徴なんだろうと思っています。その中で自分の目的が上がっていくんです。

ー 社員が持ってくる新規事業の提案は、最初の段階からもともと筋がいいものが多いのでしょうか。それとも磨いていく中で筋がよくなっていくのでしょうか。

麻生要一(以下・麻生) 磨いていく中でよくなっていくケースしかないですね。RecruitVentures(以下・ベンチャーズ)では、毎月新規事業開発の予選をやっていますが、レベルはそのときによってまちまちです。昨年度通した中でいえば、『CoPaNa』という一時保育の事業のプラットフォームは、エントリー時点の完成度が結構高かったんですよ。ただ、よくよく聞くと、それを提案した社員はその前に経験していた女性リーダー研修で「お前はどうしたいんだ?」ということをトップマネジメントから詰められ、自分の中で深掘りしてやりたいことを見出し、一生懸命準備して、持ってきていたんです。他にも『BRAIN PORTAL』というハードウェアスタートアップ向けの製造支援をやっているサービスは、予選通過は2015年2月ですが、最初にベンチャーズに出したのは2014年の4月です。初めの段階では、ただ「人と人をつなぎたい」というようなことしかなく、明確なビジネスプランがない状態だったんですが、そこから10ヶ月ぐらいかけて、やりたいことを昇華しているんです。

ー 今までやってきた中で、応募者の数や質などの面で悩んだことはありましたか?

麻生 僕が着任する前の年が、応募件数200件で過去最高でした。でもそのうちの多くが、内定者か入社1年目の新人社員による「こんなアプリをつくりたい」というもの。いわばアプリ開発コンテスト状態になっていて、雑な言い方をすると、10件のうち4件が「Googleマップで旅行経路を最適化する」みたいなものだったんです。数は多くても質が伴っていないような状況でした。

そこでまず、そもそも骨太な事業を打ち出してやりきれるような人は、すでに独立してしまっているのではないか、という仮説を立てたんです。社内起業ができるような場づくりができていないから、外に出てしまっているんじゃないかと。そういう仮説を置いて、独立するよりもすばらしい仕掛けを用意しようと、打ち手を2つ考えました。

まずやったのが、ステージゲート方式。独立した場合と遜色ない資金投下量の設定に加えて、事業化決定後に成長期までプロジェクトを育てるためのナレッジ提供、人的資源の投下を含めた「事業開発に必要となるあらゆる面でのサポート」を具体的に仕組み化していきました。その上で、募集するビジネス領域に関して「重点テーマ」を設定することで、リクルート全社の新規事業としてやりたいのは、ライトなアプリ開発ではなく、社会を変えるような骨太なビジネスであることを発信し続けました。

麻生要一・巻口隆憲

ー 他の企業に比べると、リクルート社内には事業開発をやりたい人が多いイメージがありますが、なにか要因はあるんでしょうか。

巻口 ボトムアップの文化があり、下から投げた球を上がきちんと承認するからではないでしょうか。上司側が思ってもみなかった球を投げられたとしても、面白いと思ったら、やってみようと言いますから。事業戦略がキャッチボールの中で決まっていく、ということを昔から続けていて、そこから出てきたサービスがそのまま大きなビジネスになることも多々あります。

最近、海外のビジネススクールの教授たちと、リクルートで多くの新規事業が生み出される源泉は何なのかを議論しているんですが、その中でシリコンバレーでのモデルとの比較で教授が指摘してくれたことがあります。それは、ベンチャーズの仕組みはシリコンバレーのいいところを非常に上手く取り込んでいるが、唯一圧倒的に優れているのは、リクルートの新規事業制度には、ちゃんとしたルールがあるということ。それは「中長期的に実現することが目的である」ことです。シリコンバレーの場合は、立ち上げる途中で売ってもいいし、実現した瞬間に終わってもいいなど、イグジットの方法がいっぱいある。それに対してベンチャーズには、必ず実現するという道しかない。

麻生 なるほど。

巻口 だからこそ「Why(なぜ)?」をすごく大事にしているんですが、起業して金持ちになりたいというような「Why?」は、リクルートの社員からは出てこない。

麻生 制度を運営する側にとっては制約条件でもあるんですよ。ベンチャーズを通過した提案者がよく言うんです。「スピンアウトさせて、バイアウトしてもらえばいいんじゃないですか」と。でも突き詰めると、リクルートグループの経営として、数億〜十数億程度の単発のバイアウトマネーを得るために、これだけ大掛かりなことをやるのは、非効率なんです。やるならやっぱり永続的に社会の中に根付いて、永続的にリクルートグループの収益に寄与するようなものを生むのでないと、存在意義がないんです。これが新しいことをやる上では結構苦しくて。途中でバイアウトして、リターンがちゃんと見合えばいいよと言ってくれたほうが、100倍楽なんですけどね。

なので、提案する新規事業のリーダーが、何のためにそのサービスをやっているのかということに帰着するんですよ。もちろん、それに対してリクルートは全力で支援していくんですけど、最後はその事業のリーダーが「世界をどうしたいのか」によるんです。もし、バイアウトしてもいいかなと途中で1ミリでも思っていたら、社会がついてこない。絶対にこの世界を変えるために自分はやっているんだという、その1点にかけられる人かどうかということが、すごく重要だと思ってます。

なので最初の段階でも、その部分は必ず見るようにしています。ちょっと成り上がりたいとか、周りでスタートアップをやっているから自分もやりたいけど独立は怖いからベンチャーズでやりたい、みたいな人がいるんですよ、正直。それでは後々ついてこないので、マインドを変えてもらうか、そういうマインドなんだったら「独立したら?」というようにしますね。リクルートという大きな場を使って、本当に社会変革をやりたい人を通すようにしています。

巻口隆憲

リクルート経営コンピタンス研究所 室長 巻口隆憲氏

『New RING SUMMIT』という場の価値

ー リクルートには『New RING SUMMIT』という、リクルートグループ各社の『New RING』(新規事業提案制度)の成果を共有する社内イベントがありますが、どういった意図で開催されているのでしょうか。

麻生 簡単にいうと、新規事業開発の「機運を盛り上げるため」ですね。翌年度のエントリー数を最大化し、質を高めることを目的としてやっています。

量を増やすという面では、新規事業をやることが花形であるという空気づくりを意識しています。昨年末に開催したサミットでは、オフィスの最上階(41階)を貸し切って、堀江貴文さん(SNS株式会社 ファウンダー)を呼んで、700人の参加者を集める。そんな"何かすごい感じ"を作りだす。そこから自分もやってみたい、やったら出世するかも、みたいな空気づくりをするということが1つですね。

質の向上という面では、全New RINGの受賞案件を並べてプレゼンしてもらい、執行役員(EXE)が講評し、堀江さんなど参加メンターからダメ出しを受けるという一連のプロセスをパッケージ化することで、どのレベルなら受賞できるのかを見極めてもらう。受賞案件でも、事業会社ごとに特徴がありますから、それぞれの審査基準をみせることで、ここまでやらなきゃいけないのかというハードルの引き上げ、もしくは逆に、この程度でいいなら俺でもできるかもとか、それぞれの人に適切な応募動機を装着することを目的としてやっています。

堀江貴文

社内イベント『New RING SUMMIT』の様子

ー 受賞してプレゼンしているのに、講評でボロクソに言われていたのが印象的でしたが、そこにはどんな意図があるんでしょうか。

麻生 スタートアップ界では普通なんですよ。資金調達しました、スタートアップコンテストに出ました、といっても、永遠に成長させなきゃいけないものですから、どのコンテストにいってピッチしても、かなりの確率でボコボコにされますね。

ー 本当に事業化を見据えることを前提に、受賞者に対してフィードバックしているということでしょうか。

麻生 本当はそうあるべきなんですが、今のNew RINGはちょっと神格化され過ぎちゃっていますね。(笑)New RING獲ったらすごいみたいな風潮がありますけど、あくまでスタートですから。New RINGを獲ったからには、すごいんでしょうね、来年?というのが本当だと思うんですよ。なのでNew Ring SUMMITは表彰式兼フィードバックの場でもあるんです。あれだけの人たちの前でやりますといって、ボコボコにされたら、やらざるを得ないだろうという覚悟みたいなものも生まれますよね。New RINGというのは、始めていいよと言われただけであって、まだすごいことを成し遂げたわけじゃないですから。

麻生要一

Media Technology Lab.室長 麻生要一氏

査定と出世は別物

ー 一般的な企業で新規事業を募集すると、応募者が集まらないといった問題が起こりがちですが、なぜだと思いますか。

麻生 ベンチャーズでは、エントリー通過までを6段階に分けています。その一番最初を「Will」といっているんですが、Willがないとどうしようもないんですよ。ここでいうWillとは、「何でもいいから何かしたい」という思いのことです。「何かしたい」という人が一定数いないと、応募者って集まらないと思うんですけど、リクルートが幸せな会社だと思うのは、Willは大体現場にあるんですよ。

リクルートは何かしたいと思っている人の集団みたいなところがあって、「お前、何かしたいだろう?」と聞いたら「はい、何かしたいです」と言う人が多い。いろいろな会社の新規事業担当者と話すと、まずそれが少ない会社が多いように思います。たとえば、「上から言われたことをきちっとやって、ミスなく定年まで走り抜けていくことがいい」と思っているような会社では、難しい部分ではあります。

ー もし、そういう企業に「リクルートでやっていた新規事業開発をうちでもやってくれ」と頼まれたら、どこから手をつけますか。

麻生 まずはトップマネジメントです。新規事業をやるということをまず決める。しかもボトムアップで。それがたとえ既存領域を脅かすことになったとしても、とりあえずやると決める。そして、予算組みと権限を、新規事業開発トップに渡します。

その上で、社内から応募させることに手間をかける。やり方はいろいろありますが、オープンイノベーションという形でやることで刺激を与えたり、起業家を呼んで機運を高めたり。また、最近大企業で多く見られるのが、スタートアップとの連携です。CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を作ってマイナー出資しながら、そこのスタートアップ経営者と現場を引きあわせることで、コラボレーションのプロジェクトを生み出すやり方です。新しいことをやりたい人、すでにやっている人たちの考え方を、社内に吹き込んでくるような感じですね。

ー では逆に、リクルートで応募者がいなくならない理由は何なんでしょうか。

麻生 そうならないために表彰とかを重要視しているからではないでしょうか。何か勝手にやって、世の中を変えちゃったみたいな人が表彰されているんで、ああ、そういうことをやったほうがいいんだと他の人が思うんでしょうね。

巻口 でも逆に全社表彰制度で表彰される人が各事業会社で一番褒められているかというと、そんなこともなかったりもするからね。各事業会社には事業会社としての戦略があるから、それを実現して価値を出している人が評価される。やるべきことをちゃんとやった人がそこでは一番になる。

麻生 やるべきことを忠実にやって、会社を支えている人はいっぱいいますし、それはとても大事ですからね。

巻口 今やるべきことをちゃんとやるというステージのビジネスももちろんあるし、目の前のことをちゃんとやらなきゃいけないのは当たり前。その上で、この会社はダブルスタンダードをとる。「着実にやれよ、やり切れよ」といいながら、「どんどん方向転換しなさい」という。両方できる方法を見つけろというからね。

ー では例えば、新規性は全くないけど昨対150%の売上を上げた人と、100%だったけど、全く新しいことをやった人がいたとしたらどちらが褒められるんでしょうか?

麻生 褒められる場が違うんですよ。やるべきことをちゃんとやった人は査定が高くなる。やらなくてもいいんだけど、新しいことをやった人は出世するんです。

ー 査定と出世は、普通の企業だと1本の道だと思いますが、リクルートでは違うと?

巻口 そう。むしろ新しいことを1つもやっていなくて出世した人はいないよね、きっと。

麻生 いないですね、この会社には。

巻口 現場で業績を上げている人間も、ずっと同じところにいることはなくて、ほぼ間違いなく業績が上がりづらい場所に異動させられるんですよ。修羅場をくぐらせると、もっと成長すると思うから。百戦百勝なんてだめ。失敗しないと。楽なことをやっているから、失敗しないわけですから。

麻生 評価と出世が違うというのは確かにそうですね。普通はそこが一番密接に絡んでるじゃないですか。例えば3年ぐらい『A』の評価をとり続けると1個上がる、みたいなことってよくあるけど、リクルートは違いますもんね。

巻口 仕事の報酬は仕事だっていうじゃないですか。仕事の報酬がお金(もしくは給与)だったら評価なんだけど、仕事の報酬が仕事なんだったら、それはつまりポストじゃない? イコール出世だよね。もっと難しいポストという機会を提供する。もっと難しい仕事をさせることが報酬なんですよ。

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