シリーズ アジアで働く 中国のシリコンバレー・いま加速する深圳の経済シーンとは?

シリーズ アジアで働く 中国のシリコンバレー・いま加速する深圳の経済シーンとは?

企画:榊原 宏一(Global Marketing TL) 文:塚田有那

中国の経済特区のひとつであり、いま急速な経済成長を遂げている都市、深圳。 ここはいま「中国のシリコンバレー」と呼ばれ、世界屈指のハードウェア製造都市として注目を集めているのをご存知だろうか。「シリコンバレーの1ヶ月は、深圳の1週間」と噂されるほど、急速なスピードで小ロットのハードウェアが製造できる街として、この数年のうちにアメリカをはじめとする各国からスタートアップ企業が押し寄せているのだ。

現在進行形で進化する深圳という街は、いまどんな状況にあるのだろうか? そして、現地で働く日本人はどんなワークスタイルを送っているのだろうか? 深圳のスタートアップ事情に精通するチームラボの高須正和氏と、リクルート 海外人材紹介事業「リクルート・グローバル・ファミリー(RGF)」深圳拠点長 松井有沙から話を伺った。

深圳が「中国のシリコンバレー」と呼ばれる理由

1980年から中国初の経済特区に制定された深圳は、市の南側に香港、東と西側を海に囲まれた貿易に有利な都市だ。市の中心部には高層ビルが立ち並び、広大な土地の中を高速道路が縦横無尽に張り巡らされている。市の人口は東京を越える推定1400万人(東京は1300万人)*、製造業を軸に発展した、中国内で最も豊かな都市のひとつとなっている。

深圳高層ビル
深圳高層ビル

特筆すべきは、ここ深圳が中国の大量生産を支えてきた製造業のメッカだということだ。しかしいま、従来の製造業を一新する新たなビジネスの潮流が生まれている。

そのひとつが、ソフトウェアからハードウェア産業に進出した「メイカー」とも呼ばれるスタートアップ企業たちだ。かつての大手企業が製造業を一手に担っていた時代から、今では3Dプリンタなどのデジタルファブリケーションの普及により、若いスタートアップ企業がデジタルガジェットやIoT製品にも着手できるようになった近年。彼らは製品のプロトタイプをオンラインで発表し、クラウドファンディングや投資家などから資金を集めて、新たな市場流通を獲得し始めている。

そのとき求められるのは、大企業の大量生産に対応する大規模製造工場ではなく、小ロットで、複雑なオーダーにも臨機応変に応えられる中小工場だ。その基盤が、深圳にはあった。ドローンなどの複雑かつ小ロット生産を必要とするデバイスは、深圳の工場が最も得意とするフィールドだ。

はじめは香港などの下請け工場の拠点としてはじまった長い製造業の歴史の中で、次第に労働者の技術力が上がり、充実した設備投資が行なえるようになったことから、現在では独自のノウハウを身につけた一部の工場が最先端のハイテク産業に精通するようになった。また現在の深圳には工業系の大学や専門学校、高校もいくつかあり、エンジニアの卵が毎年輩出されているという。そうした労働条件や教育の向上から、現在の深圳は、より高品質で技術力の高い製造が可能な都市へと成長してきたのだ。

深圳は、産業の成長と、現代のスタートアップビジネスの潮流とが見事に結びつき、いま新たな「ものづくりのシリコンバレー」へと進化を遂げる真っ只中にある。

チームラボ高須正和氏に訊く、世界中の「メイカー」が深圳に集まる理由

デジタルファブリケーションの普及によって、個人によるガジェットや機械製品のものづくりの可能性が広がるいま、全世界に巻き起こる「メイカー」ムーブメントは留まることを知らない。個人や企業が同列にブースを出展できる「Maker Fair」には、DIYで作られたドローンやロボット、3Dプリンタ製品などを一同に見て回ることができる。

現在はチームラボの高須正和氏(現在はシンガポール在住)は、深圳やシンガポールのメイカーフェア運営委員をつとめ、世界のメイカーたちとのコネクションを多く持つ人物だ。

先述した深圳の経済発展の背景や、メイカームーブメントの最先端事情は、すべて高須氏の著書『メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。』に詳しい。そんな高須氏が、メイカーたちの聖地としていま最も注目するのが深圳だ。

「僕がはじめて深圳を訪れたのは2014年のMaker Faire Shenzenでした。その年にはクリス・アンダーソンをはじめとする世界に名を馳せるメイカーたちが集結し、ネットで話題をさらっていた世界中の有名なスタートアップが軒並み押し寄せていたのです。ここには何かあるに違いないと感じ、世界的な求心力をもつ深圳というハブに強く惹かれていきました。

特に、Maker Conference Tokyo 2013でトークを聞いて興味を持っていた、"シリコンバレー・深圳"の超重要人物、「Seeed」代表のエリック・パン氏と実際に話せ、その後一緒にMaker Faire Shenzhenの運営をすることになった出会いは何ものにも代え難いものでしたね」

Maker Faireには様々な国から人が集まる。右から二人目が高須氏 (提供:高須正和)
Maker Faireには様々な国から人が集まる。右から二人目が高須氏 (提供:高須正和)

この「Seeed」のパン氏とは、先述した高須氏の本に詳しいが、世界のスタートアップ企業と深圳のコミュニティを築くきっかけとなった人物だ。彼の工場には熟練のエンジニアが集まり、難易度の高いオーダーにもすぐ対応できる体制を整えている。またエンジニアリングの技術のみならず、クリエイティブやデザイン的な側面にも造詣が深く、世界中のメイカーたちとコミュニティを築いているという。

「深圳には、たくさんの欧米人コミュニティがあります。彼らが数週間からときには半年近くかけて深圳に滞在する理由は、ものづくりのスピードが圧倒的に早いから。電子基板を1枚発注・輸入するのに自国にいたら1週間ほど待たなくてはならないところを、深圳で相談すれば翌朝には届くし、部品一つひとつを作っている工場の社長にすぐに会って細かなオーダーをすることができる。『シリコンバレーの1ヶ月は、深圳の1週間』と言われる所以はここにあります」

世界中のメイカーたちと交流を重ね、自らがハブとなりながら各国を転々と飛び回る高須氏は、アジアの働き方についてこう語る。

「どこか盛り上がっている都市を訪れたからといって、ただ街並みを眺めているだけでは何も変わりません。重要なのは、一緒に何かをやること。それはシンガポールに拠点を移して強く学んだことでもありますね。シンガポールは多民族国家のため、人種や国境に境界がなく、どんな人ともつながろうとする。そこで僕も、海外イベントなどで名刺交換をしたら、翌朝には自分がいまどういうことをしていて、次はどこに行くなどを送るようにしています。そこからコミュニケーションが始まれば、『今度は◯◯のイベントに行くよ』なんて連絡を取り合ったりするようになる。人の多いイベントには、一発で覚えてもらうような格好で向かいます。最近では『Maker Faire』の開催時に秋葉原や深圳でクラブイベントAkiPartyを主宰するようにもなりました。いま、人間関係に国境はありません。いま勢いのあるスタートアップは、異国人同士の多国籍なチームを組み、幅広い視野を持って挑んでいるところがほとんどですね。何かを生み出そうとするとき、友達は世界中にいた方がいいんです」

RGF松井有沙が見つめる、深圳の暮らし、働きかたとは?

リクルート国内事業会社に在籍後、現在はリクルート海外人材紹介事業「リクルート・グローバル・ファミリー(RGF)」深圳拠点長として働く松井有沙。上海事業部から拠点を移し、1年前から深圳で働くようになったという。

「リクルート国内事業会社で人材派遣の仕事を担当していた際、大手企業が外国人を積極的に採用している現状に強い関心を抱いていたんです。企業がより良いものづくりを続けるには、チームビルディングがとても重要になる。そのとき、これからの仕事は、様々な国のバックグラウンドを持った人々とチームを組むことが自然になっていくと思うようになりました。また、外国人採用の中でも中国人スタッフの評価が非常に高かったことも興味深かったんです。近い未来、中国の方と共に働くビジョンが自然と抱けるようになりました」

松井有沙
松井有沙

現在は、携帯部品や半導体製品をはじめとする電子部品系の企業やIT系の企業を主な取り引き先として働く松井にとって、深圳という都市の事情はどう見えているのだろうか。

「いまの深圳は、誰もが成功できるチャンスがある街というイメージが定着し、一旗を当てようとやってくる若者が多く存在します。深圳にはいま経済的に好調な企業がたくさんあります。たとえば『HUAWEI』という総合通信会社はR&D的な要素も強く、現在の深圳の発展はこの企業が支えてきたといっても過言ではありません。また、IT系企業の進出も目覚ましく、これらは給与が高いこともあって中国全土から優秀な人材が集まっていますね。新興の街である深圳への人口流入は右肩上がりで、都市の平均年齢は36歳と非常に若いのも特徴だと思います。一方で、土地の値段がここ数年で高騰し、大きな格差が起きているのも事実ですね」

日本人がアジアで働くとき、各地の習慣や働きかたにギャップを感じる人も多いというが、松井は日本との違いをどう感じているのだろう。

「深圳だから、というよりは日本と中国の違いかもしれませんが、みんな終業時刻になったらぴったり帰りますね。常に作業の最短な方法を考えるので、ムダを嫌う傾向は強いと思います。また、すぐに完成を目指すのではなく、途中経過の段階であっても上司や同僚に見せてしまい、お互いにブラッシュアップさせながら完成させていくので、結果として業務のスピードは早いと感じることが多いですね。コミュニケーションにおいても、日本はとにかく丁寧なやり取りを好みますが、こちらは大雑把。でも、その分簡素でわかりやすいと感じます」

いまの深圳は、ものづくり改革が起きた21世紀以降の産業と、最も相性のいいかたちで発展している都市と言えるだろう。たくさんの可能性を秘めたこの街へ、まだ見ぬ誰かとの出会いを探しに行くのもいいかもしれない。

*(出典元:深圳市统计局)

プロフィール/敬称略

高須正和(たかす・まさかず)
teamLab株式会社 Catalyst

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボ/ニコニコ学会β/ニコニコ技術部などで活動をしています。日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があります。現在シンガポール在住。MakerFaire 深圳(中国)、MakerFaire シンガポールの実行委員。
連載、著書「メイカーズのエコシステム」など

松井有沙(まつい・ありさ)
RGF HR Agent China 深圳拠点 拠点長

1987年生まれ。新卒でリクルートメディアコミュニケーションズ(当時)に入社後、HR領域で採用支援業務に従事。日本国内で外国人採用・育成が進む状況に刺激を受け、海外就労の夢を実現するため2013年にRGF中国へ入社する。2015年より同社の深圳拠点長として着任。

 

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