シリーズアジアで働く 生産拠点から消費市場へ変貌を遂げるベトナム。ベトナムで売れる為に必要なこと。

シリーズアジアで働く 生産拠点から消費市場へ変貌を遂げるベトナム。ベトナムで売れる為に必要なこと。

企画:榊原 宏一(Global Marketing TL) 文:葛原 信太郎

つい40年前まで北と南に分かれ戦争下にあったベトナムは国内に複雑な文化を持つ。ベトナムにとって日本は、戦後先進国の仲間入りを果たしたという点においてロールモデルだ。それもあって日本の人気は高い。留学生の多くは日本での学習を希望し、日本人と気質や社会通念も似通っている。

「チャイナ・プラス・ワン」の最有力国として大きく成長してきたベトナムは今、ビジネスにおいて、大きな変化の時代を迎えている。製造拠点から消費地へと変貌を遂げているのだ。

今回は変わりゆくベトナムの市場について、独立行政法人 日本貿易振興機構「JETRO(ジェトロ)」のホーチミン事務所で、プロジェクトディレクターとして働く大久保 文博氏と、同国での日系企業向けサービス体制をより増員する、リクルート 海外人材紹介事業「リクルート・グローバル・ファミリー(RGF)」ベトナム拠点長 細田 裕子から話を聞いた。

ジェトロ大久保氏に訊く、ベトナム市場の変貌

ジェトロは日本の貿易・投資の促進と、そのための情報提供、調査・研究などを行っている独立行政法人である。例えば、日本の企業がベトナムに工場を設立する場合、賃金、輸送、税制などの各投資コスト、販路先となる市場動向などの情報提供を行う。ベトナムの市場に関する調査をレポート等にして公開するといったことも仕事にしている。大久保氏は、大学時代にベトナムで教育支援を行うNPOの代表を務め、ジェトロに入構後も社内の制度でベトナム・ハノイに留学、そして今、ベトナム・ホーチミンに赴任しており、ベトナムを知り尽くしていると言っても過言ではない。そんな大久保氏はベトナム人を『見栄っ張り』と表現する。

日本貿易振興機構「JETRO(ジェトロ)」大久保氏
日本貿易振興機構「JETRO(ジェトロ)」大久保氏

「彼らはすごく節約家であり、見栄っ張りでもあります。ベトナムでモノを売るときに大事なのは価格設定です。高すぎても売れないが、安いものを買っているとは思われたくない。

こんなベトナム人気質をよく研究し、ビジネスにうまく活用したのが、サッポロビールです。この国で一番人気のビールはハイネケンで、ブランド力も価格も一番高かった。サッポロビールはそれよりもわずかに高い値段を敢えて付けました。パッケージを金色にして、より豪華さを演出したんです。後発ながら、ハイネケンに負けず劣らずの勝負を続けています。

また、丸亀製麺もベトナムで成功しました。ポイントは、価格を自分で調節できることにあります。日本でもそうですが、うどんに天ぷらを追加していくことによって値段があがっていきますよね。自分のお財布事情に合わせて、天ぷらを2つにするのか、おにぎりをつけるのか選ぶことができる。また、うどんのコシをベトナム人に合わせ柔らかくしています。消費者に歩み寄った戦略がよかったのだと思います。

今年の7月末には、ホーチミンに高島屋がオープンしましたが、テナントとして久原本家、ぼてぢゅう、山崎製パン、麻布茶房、源吉兆庵などが、ベトナムに初進出しました。また、高島屋以前にも、大戸屋、牛角、大阪王将、イオン、ファミリーマート、ミニストップ、東急電鉄、湘南美容外科など、小売業やサービス業が多く進出しています。

ホーチミン中心部の最新商業施設
ホーチミン中心部の最新商業施設

はっきりといえるのは、時代は変わったということです。ベトナムといえば以前は組み立て加工の生産拠点の国でしたが、今は多くの日本企業が消費市場としてどうシェアを拡大していくかを考えています。ベトナム北部はまだ生産拠点としての存在感も強いですが、今後ますます変わっていくでしょう。」

ベトナムは年々人口が右肩上がりで失業率は低下傾向にある。周辺諸国に比べ政治的にも安定していることも景気を押し上げている要因だ。

飲食以外では、IT分野の伸びが顕著であり、オフショア開発の拠点として注目を集めている。「FPT Corporation」は東芝や日立からオフショア開発を受託し、「FPT Software Japan」という日本法人もある。こういったベトナムを代表するIT企業が現れてきたことが、ベトナム国内でのIT分野の盛り上がりを示していると大久保氏は語る。

「プログラマーは憧れの職業のひとつです。この国の大卒の人気就職ランキングでは、大手の国有企業、銀行、ITが上位で、非常に景気がいい分野です。ダナンなどの地方都市から、優秀なIT人材がホーチミンに集まっています。」

RGF細田 裕子が語る、ベトナムにおける日本人のチャンス

『海外』と『人材』、この2つのキーワードを持って働き方を考えてきたリクルート 海外人材紹介事業「リクルート・グローバル・ファミリー(RGF)」ベトナム拠点長 細田 裕子。上海拠点での経験を経て、ベトナムへ責任者として移り、20人ほどのスタッフを抱え、拠点長を務める。日系企業からの注目が熱い同国でRGFは、ホーチミン・ハノイにオフィスを構えており、日系企業の躍進を受け、ハノイ拠点での、人員増強、体制の強化を決定。日系企業に対するベトナム全土での人材支援サービスの向上を推し進める予定だ。そんな細田は、ベトナムを投資、投機のチャンスが多い国であると見ている。

「日本では、数千万円かかるような事業でも、ベトナムならばスモールにはじめられます。GDPは、この数年で5〜10倍も伸びており、親日国という下地のもと、挑戦しやすい条件が揃っています。失敗のリスクが日本より少ないため起業家がたくさんいますし、アジアの他の地域と比べて、国全体が若いのも魅力ですね」

最近ではベトナムで働く日本人も急拡大している。細田によれば日系企業の多くは人材不足。製造、IT、小売、外食など必要とされている職種は多岐に渡り、日本の求職者を受け入れる土壌もある。英語を使って仕事をしたい若者や、過去に海外での駐在経験があるシニアまで、年齢層も幅広い。日本企業の進出が増えている今、ベトナムには大きなチャンスがあると言っていいだろう。

海外生活入門編のような国、ベトナム

ベトナムに赴任するとすれば、仕事以外の生活面も気になるところ。細田によると、日本人同士の趣味やスポーツの集まりや、県人会など、コミュニティ活動は盛んで、現地の日本人と知り合う場面はたくさんあるそうだ。

「屋台でご飯を食べたり、コーヒーを飲んだり、気候がいいこともあって道端にたくさん人がいて活気があります。ベトナムではコーヒー屋さんでビジネスの情報交換をすることも多く、経営者はここから仕入れたネタを商売に活かしています」

ベンタイン市場
ベンタイン市場

また、幼いお子さんを持つ大久保氏は、子育てもしやすい環境だという。

「レストランで子どもが騒いでもみんな寛容です。それぐらい周りもうるさいわけですが(笑)。日系の幼稚園や学校もありますから子育てに大きな問題はありません。ただ、病院は少し困ります。クリニッククラスなら問題ないですが、緊急の大型手術となるとバンコク、シンガポールに搬送されます。とはいえ暮らしには大きな問題はありません。親日的で日本語を話せる若者も多くいます。言ってしまえば、ベトナムは海外生活の入門編みたいな国です」

多様性を認め、相手と交渉できる人が活躍できる

ベトナムでビジネスマンを志すならどんなことを大事にしたらいいのだろうか。大久保氏は、文化の違いを乗り越えて、相手と交渉できることだという。

「自分と文化が違う人たちとどう付き合っていくのか。彼らの言いなりになってはいけないし、こちらの都合を押し付けるだけもいけません。だんだんとこちらに誘導していくような賢さと粘り強さが必要です。それを可能にするのは、多様性を認められる度量や忍耐力があるかどうか。例えば交渉事では、年齢、性別、宗教、人種、国籍などにとらわれることなく、過去の事例や状況分析などを通じて条件を交渉していくことが必要です。」

細田も自分の経験を踏まえ、こう語る。

「バックグラウンドが違いますからこちらの主張を押し付けたり、日本の常識で注意をしたりしないようにしています。問題があった時はなぜ起きたのか、しっかり話すことで解決しています」

また、大久保氏は日本人の細やかな気質にベトナムで活躍できる素地があるという。

「この国は色んな意味で発展途上です。例えば、スケジュール通りの工程管理は苦手。だからこそ日本人が入り込める余地がある。日本で一般的な工程管理を行うだけでも強みとなるでしょう。」

日本での経験を活かしながら、グローバルで戦うことができる人材に成長していく。多様性を認め、交渉するチカラをつけて、さらなるパワーアップを図りたい人にとって、ベトナムは最高の挑戦の場となるのではないだろうか。

ホーチミン市街
ホーチミン市街

プロフィール/敬称略

大久保 文博(おおくぼ・ふみひろ)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ホーチミン事務所PROJECT DIRECTOR

福島県出身。明治学院大学 国際学部卒業。早稲田大学 大学院 公共経営研究科修了。2008年4月に日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。貿易投資相談センターを経て2011年7月~2012年7月に語学研修生としてハノイ貿易大学(ビジネスベトナム語コース修了)に留学。海外調査部アジア大洋州課でのベトナム・タイの調査担当を経て2015年7月より現職。

細田 裕子(ほそだ・ゆうこ)
RGF HR Agent Vietnam 拠点長

2007年リクルート(現リクルートキャリア)に入社、HR領域で新規開拓営業を経験後、EC系ベンチャー企業にて管理部門、商品開発等を担当。その後、2011年リクルートホールディングス中国法人のRGF HR Agentに参画。上海にて、主にキャリアアドバイザーやチームマネジメントに従事し、2014年に渡越、2015年から現職。

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