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テクノロジー業界の成長を目指す東欧・ベラルーシ、そのスタートアップシーンは今

グローバル , スタートアップ , テクノロジー , ヨーロッパ

文:佐藤ゆき 写真:ベラルーシの首都ミンスクの中心地にある独立広場、著者撮影

世界各地のスタートアップシーンをレポートする本シリーズ。今回取り上げるのは、東欧の国家ベラルーシだ。

ベラルーシという国名を聞いて、咄嗟にその国のイメージが浮かぶ日本人は少ないかもしれない。決して目立つ存在とはいえないベラルーシで今、テック業界、そしてスタートアップシーンがひそかに成長しつつある。優秀なエンジニアを多く輩出し、テクノロジー国家としての強みを打ち立てるべく奮闘中のベラルーシのテック・スタートアップ業界の概観について今回はレポートしたい。

東欧の内陸国、人口940万人のベラルーシ

まずはじめに、おそらく多くの方にとって馴染みのない国であろうベラルーシについて簡単に説明しておきたい。

ベラルーシは、東にロシア、南にウクライナ、西にリトアニアとポーランドを隣り合わせる東欧の内陸国で、冷戦中はソ連の支配下にあった。ソ連の崩壊に伴って1990年に独立したものの、その後に大統領となったアレクサンドル・ルカシェンコ政権のもとでロシアとの密接な関係は続いている。

人口は約940万人で、首都のミンスクに約200万人が住む。公用語はロシア語とベラルーシ語だ。東欧の旧ソ連諸国の多くでロシア語が使われなくなったのに対して、ベラルーシでは今でもロシア語が日常的に使われている。なお、ルカシェンコ政権の独裁体制のもとで、EUからは孤立しており、外国人の出入国に関してもロシア人など友好関係にある国籍の旅行者を除いてビザの規制は厳しい。こうした背景もあって、ベラルーシの内実がなかなか欧米諸国や日本に伝わってこないのが現状だ。

ITアウトソーシングのEPAMがテック産業を牽引

そんな東欧の孤島のような存在であるベラルーシだが、国家の産業を支える大きな存在がテクノロジー産業である。実は、ベラルーシは欧米の大手テック企業のアウトソーシング先として、人気が高い。

ベラルーシにあるITアウトソーシング企業の中で、最も規模が大きいのはEPAM Systemだ。EPAMが創業したのは1990年代初頭の頃。米ニュージャージー州在住のベラルーシ人Arkadiy Dobkin氏とベラルーシの首都ミンスク在住のLeo Lozner氏の二人のベラルーシ人が1993年に創業した。その後、社員数1万7000人の規模になるまで会社を成長させ、2012年にはニューヨーク証券取引所に上場した。東欧のアウトソース業界初のIPOだった。

EPAMは近年も依然調子が良い。昨年、経済誌Forbesが報道した「最速で成長中の上場テック企業トップ25」で3年間平均の売上成長率29%として、第6位に選出されている。* 売上高は約5.6億ドルで、グーグルなどの大手IT企業からも基幹システムの開発といった案件を受注している。

EPAMの本社は米国にあるものの、オペレーションの多くは創業者の出身国であるベラルーシで行なわれている。全従業員1万8000名のうち、約6000名はミンスクのオフィスに在籍している。ミンスクの拠点をここまで拡大できたのは、後述するハイテクパークの設立など、政府の戦略に依る部分も多い。いずれにしても、EPAMの存在がベラルーシ人に「テック業界に強い国」という自信を与えたことは確かだ。

もとより、ベラルーシには旧ソ連時代からハイテクの研究・開発機関が置かれてきたという背景もあって、優秀なエンジニアが非常に多い。現地のテック業界関係者いわく、エンジニアの給料は文系職よりもずっと高いため、エンジニアという職業に小さいときから憧れ、目標に掲げる若者も多いという。

現在、ベラルーシ国内では56の自然科学系、98の理工・技術系の学部が高等教育機関で提供されている。2015年、ベラルーシ国内の大学を卒業した8万1000人の学生のうち、2400人は自然科学系、1万4300人は理工・技術系の学生と、多くの理系学生を輩出している。

ハイテク国家になるためにーー業界の成長を目標に掲げ「ハイテクパーク」を建設

Minsk郊外に建設されたハイテクパーク Image Credit: HTP Belarus

Minsk郊外に建設されたハイテクパーク Image Credit: HTP Belarus

EPAMの話に戻すと、同社の急速な成長はベラルーシ政府をも動かした。Dobkin氏はより多くの地元のエンジニアを育てて、EPAMの拠点としてのミンスクの魅力を高めるためにも、ベラルーシ政府にハイテク機関を設置するように要請した。こうした働きかけがきっかけとなって生まれたのがIT産業の集積地「ハイテクパーク」である。

2005年にソフトウェア産業の育成を目標にした特別法が制定され、ハイテクパークがミンスク郊外に建設された。2006年、EPAMをはじめとした4社が初のハイテクパーク登録企業として入り、今では164社がハイテクパークの入居企業として登録されている。**

入居したIT企業は、法人税や不動産にかかわる税金が免除され、従業員の所得税率は9%に固定されるなど、様々なメリットが得られるようになっている。

特筆すべきは、ハイテクパークで生まれた製品の輸出率の高さだ。ハイテクパークで作られたソフトウェアの実に91.5パーセントが国外に輸出されている。***そのうち40.2パーセントは米国とカナダ、46.7パーセントが欧州諸国、10.7%はロシアと独立国家共同体の加盟国となっており、ほとんどが欧米諸国向けに輸出されていることがわかる。

また、人材教育においても戦略的な取り組みを行っている。ハイテクパークの入居企業はベラルーシ国内の技術系の大学と、80を超える共同研究を行っている。大学のカリキュラムに統合されているコースを開発している企業も多い。こうした提携は、早い段階でのハイテク人材の養成、そして卒業後の人材獲得にもつながる。2010年には、ハイテクパーク教育センターが設立され、テクノロジー業界などの経験がる社会人に対して再教育を提供する場も設けている。

また、最近ではIT系の教育機関や起業を支援するビジネスインキュベーターもハイテクパークに加わり、より幅広くテック企業の支援を提供している。後述するViber、World of Tanks、MSQRDといった新興テック企業もハイテクパークに入居していた。

このように、ハイテク企業の既存事業の成長をサポートするだけでなく、人材の養成・教育から雇用の創出に至るまで、全面的にハイテク産業をバックアップする取り組みが行なわれている。

Viber、Wargamingなどグローバルに成功した企業も誕生

国家による戦略的なハイテク産業の後押しが進められた2000年代の後半には、新興テック企業の成功事例もいくつかでてきた。

たとえば、世界的にヒットした戦争ゲーム World of Tanksを開発したWargaming社は、本社はキプロスに設置されているが、実質的なオペレーションはミンスクで行なわれている。Wargaming社はPC向けの戦略ゲームの開発スタジオとしてミンスクで1998年に創業したが、その名を世界に知らしめるきっかけとなったのは2009年にリリースされたオンラインゲームのタイトルWorld of Tanksだ。このゲームは爆発的な人気を博して、2011年にはMMO(大型マルチプレーヤーオンラインゲーム)サーバー上で同時にプレイする数としては史上最大数に達したとしてギネス世界記録に登録されるなど、世界から大きな注目を集めた。

Wargaming社は、モバイルやeスポーツへの展開を拡大するなど、事業を拡大させていった。現在従業員数は4000名を超える。ベラルーシでは知らない人はいないほどの国内大手企業と成長した。

その他、2010年に設立したメッセンジャーアプリViberも、主な開発拠点はベラルーシに置かれている。創業者は、4名のイスラエル人とベラルーシ人で本社はキプロスであるが、人件費を抑えられるというメリットもあって、開発拠点はベラルーシに置かれた。同社は2014年に、楽天が9億ドルで買収をした。

Facebookによる買収も。グローバルな展開を目指すスタートアップ企業も増加中

2016年11月にミンスクのIMAGURUで開催されたグローバル起業家ウィークでのイベントにて。

2016年11月にミンスクのIMAGURUで開催されたグローバル起業家ウィークでのイベントにて。著者撮影

2005年に創設されたハイテクパークがベラルーシの政府主導による戦略的な取り組みであった一方で、2010年代はグローバルに広がっていったスタートアップコミュニティもまたベラルーシのテック業界に影響を与えた。

そんな国内のスタートアップムーブメントの中心的なハブとなったのが、アクセラレーターのTechMinskとその拠点でもありコワーキングスペースでもあるIMAGURUだ。TechMinskは起業家のTania Marinich氏が2013年に、地元のテック系スタートアップがグローバルなマーケットで成功できるようになることを目標に掲げて立ち上げられたアクセラレータだ。海外のアクセラレータやコワーキングスペースとのネットワークをベースにして、起業やマーケティングなどのノウハウを有する世界各地のメンターに参加してもらい、参加スタートアップが迅速に事業を成長できるように後押しする。

ロシアや東欧・中東で人気のSNSを通じたマーケティングツールを開発するkuku.ioもTechMinskに参加し、十数名のチームにまで成長した。kuku.ioのコーファウンダーでプロダクトマネージャーのAlexandra Lomachenko氏はTechMinskについて、国外とのネットワークをつくるきっかけを与えてくれたと振り返る。「ベラルーシのテックスタートアップの多くが高い技術を有する一方で、投資家へのピッチやマーケティングは苦手です。TechMinskでのイベントなどを通じて国外の起業家とのつながりができ、ピッチの方法など多くのノウハウを学んだり、国外のイベントに参加するチャンスも得られました」と彼女はいう。

kuku.io のチーム。著者撮影

kuku.io のチーム。著者撮影

こうしたスタートアップコミュニティからいくつかの成功例も生まれている。たとえば、営業支援を目的とした書類自動作成ツールのPandaDocもそんなスタートアップの一つだ。同社はミンスクで立ち上げられ、その後米国のベイエリアに本拠点を移し、昨年には500万ドルの資金調達を終えている。

また、セルフィー画像をリアルタイムで加工するツールを開発するMSQRDもミンスクで生まれたスタートアップだ。もともとは2010年に顔追跡テクノロジーを開発するチームとして誕生したのだが、その後2015年にエストニアのスタートアップコミュニティGarage48がミンスクで開催した48時間のハッカソンで、顔を面白いフィルターで加工するアプリのアイデアが生まれた。斬新なアイデアとその技術が注目を集め、MSQRDはその年の年末にテックプロダクトの有名キュレーションサイトProduct Huntで取り上げられ、2016年の1月には世界で192万ダウンロードに達する。その後同年3月には、Facebookが同社を買収。そのスピーディーな展開、成功ストーリーは国内外のスタートアップコミュニティを興奮させた。

ハイテクパークを通じて2000年代に政府主導で整えられたテック事業の起業環境と、さらにここ最近で起きている国外の起業家やメンター、投資家によるコミュニティへのサポート。こうした要因を背景に、ベラルーシのテック企業は成長を続けている。

折しも今年に入ってまもなく、ベラルーシ外務省から80カ国のパスポート保持者を対象に、5日間までの滞在であればビザが免除されるという発表があったばかりだ。こうした変化は、より自国をオープンにしていきたいという姿勢の表れだろう。

ベラルーシの有する優秀な人材がこれから世界に羽ばたく機会も増えそうだ。

*Forbes 「最速で成長中の上場テック企業トップ25」
**Belarus Hi Tech Park - About HTP Belarus - What is HTP?
***Belarus Hi Tech Park - About HTP Belarus - Quick Facts

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