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観光が復興への活力に ~「九州ふっこう割」が果たした役割とは~

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*本記事はBLOGOS記事からの転載です。転載にあたり、一部記述を修正しております。

2016年4月に発生した震度7の熊本地震。九州新幹線、九州自動車道の寸断といった生活インフラの被害は、当然ながら観光業にも甚大な影響を与えた。そんな中、遠のいた客足を引き戻すため、宿泊費などが最大7割引になる「九州ふっこう割」を震災後わずか3ヶ月で発足させ、復興を大きく後押しした人々がいる。

制度設計から行政への働きかけ、さらには旅行会社の取りまとめまで、「九州ふっこう割」実現の裏では何が起きていたのだろうか。九州観光推進機構 事業本部副本部長・兼広報センター長の村岡修治さんに話を聞いた。【田野幸伸氏(BLOGOS編集部)】

「ふるさと割」をベースに「九州ふっこう割」を設計

― まずは「九州ふっこう割」が誕生した経緯を教えてください

村岡 昨年4月に起きた熊本地震によって、九州は観光面でも大きなダメージを受けました。熊本の阿蘇地方はもちろん、物理的に被害のなかった別府なども含めて、稼ぎ時であるゴールデンウィークを中心に多くの宿泊キャンセルが発生しました。

これを早期に復活させるために何か対策を打たねばならない。そんな中ヒントになったのが、2015年、全国的に行われた「ふるさと割」です。

「ふるさと割」というのは、2015年に観光客向けに宿泊料の割引クーポンや、現地で使える商品券を配布するなどしたもので、九州7県、そして経済団体と、今後何をやっていくべきなのかという議論の中で、「ふるさと割」をベースにしたものをやれないかという話になったのが、そもそものきっかけです。

― 地震で直接の被害を受けた熊本・大分以外でもダメージは大きかったのですか。

村岡 先ほど申し上げた通り、地震の被害は熊本・大分のみならず、九州全域に広がりました。例えば、九州最南端の鹿児島は、熊本の新幹線と高速道路が被害を受けたことで、人の流れが止まってしまいました。また長崎では風評被害による修学旅行のキャンセルが相次ぐなど、地震がまた起きるのではないかという恐怖心から客足が途絶えてしまったのです。

「九州ふっこう割」の狙いは"風評被害の払拭"

― 熊本地震は4月14日・16日に起きました。最初に「九州ふっこう割」の会議が行われたのはいつ頃でしたか。

村岡 震災が起きて1週間以内には九州7県、経済団体が集まり、我々機構がまとめ役になって、対策会議を開いていましたね。

― 「九州ふっこう割」が実際に始まったのはいつですか。

村岡 7月1日からになります。

―震災から3ヶ月かからなかったと。対応が非常に早いですね。旅行会社各社もクーポン対応等の準備をよく間に合わせましたね。

村岡 「ふっこう割」の販売チャンネルは、国内・海外向けのOTA(Online Travel Agent:インターネット上で販売を行う旅行会社)とリアル店舗、あとは国内向けのコンビニ券です。それぞれのチャネルでの制度設計に要する時間が異なるため、正直足並みは揃いませんでした。7月1日スタートは、比較的短時間で準備が可能なOTAありきで進めて、コンビニ券とリアル店舗に関しては、制度設計が出来たところから順次発売いただくという手法を取りました。

何としても7月の夏休みシーズンに間に合わせたいという想いと目標があったので、7月1日の開始には、非常にこだわりました。そこではOTAの旅行会社の存在が、非常に心強かったですね。やはり準備の時間がリアル店舗に比べると短縮できるので。

― 「九州ふっこう割」と言いつつもOTA同士は競合社ですよね。各社の足並みは揃ったのでしょうか

村岡 OTAに関しては、すべて揃えていただきました。時間の無い中で、非常にありがたかったですね。『じゃらん(リクルート)』さんら大手OTAが旗振り役を買って出てくれて、かつてないような取り組みを、各社足並みを揃えてやっていただけたことには、非常に感謝しています。いわゆるOTAが今の宿泊販売のニーズにマッチしているという事実の一旦を垣間見た気がしますね。

― 『じゃらん(リクルート)』とは他にも色々な取り組みをされたそうですが。

村岡 OTAの販売分のかなりの割合を『じゃらん』さんに託しました。当初、宿泊単品は売れたのですが、JRや飛行機とセットの交通付きはなかなか売れなかったんです。そういう時に、「さすがだな」と思ったのは、『じゃらん』さんは割引クーポンの投下先を変えるんですね。

我々の本音は、交通付きを売って欲しかったんです。なぜかと言うと、「九州ふっこう割」は風評被害の払拭が大きな目的で、風評被害は「距離」と正比例するからです。

例えば、九州内での風評被害はすぐなくなるんですよ。安全だということが伝わりやすいからです。しかし、東名阪での風評被害は簡単には払拭できない。なので、東名阪の方に来てもらって、観てもらって、帰ってもらって、口コミを広げて欲しかったんです。

そういう我々のニーズに、いち早く気付いていただいて、宿泊単品で利用できるクーポンに投下していた原資を、じゃらんパックという交通付き宿泊パックで利用できるクーポンに再配分していただきました。そういうフレキシブルな動きをスピーディーにやっていただけて感謝しています。

リクルートさんのような会社って、人生の色々な場面にかかわってるんですよね。ゆりかごから墓場までじゃないですけども、そういう人生の関わり合いのなかに観光業が入ることによって、色んな相乗効果が出てくるのかなと。

観光業を観光の世界だけで終わらせず、さらなる可能性を広げてくれるのが、全国にネットワークを張り巡らせているリクルートさんであり『じゃらん』さんであり。

我々はそうした企業が、九州の魅力を広めてくれる事を期待しています。

「九州ふっこう割」のメインテーマは"あなたの旅が九州を元気にする"

― 私も「ふっこう割」の第二期を使わせていただいて熊本に行きました。ホテルが5割引になって大変嬉しかったのですが、被災地で驚いたのは、復興のスピードの遅さです。

瓦礫の山を見て、熊本や大分の被災地のために自分は何が出来るのかと考えさせられました。地震の爪痕を観光客に見せることも意味があると思うのですが。

村岡 現状では非常に表裏一体というか、諸刃の剣だと思うんですね。実は私も被災者なんです。妻の実家が震度7だった熊本県益城町で、まだ義理の父は仮設住宅から帰れていません。私は熊本県八代市の出身ですが、実家も被害を受けました。被災者の気持ちも分かっているつもりです。

実は「ふっこう割」の導入には「時期尚早じゃないか」と賛否両論がありました。

「地元住民の方の感情を逆なでするんじゃないか」「観光どころじゃないだろう。こちらは生死がかかっているんだ」と。私も、こういう立場にありながら、同じ気持ちでした。

ここは我々も非常に迷ったところなんですが、ここで考えるべきは、観光が持つポテンシャルだと思うんです。観光は、観光業界のみならず、農業や漁業といった一次産業からサービス業まで、裾野への広がりが非常に大きな産業です。

先程のご質問でいえば、例えば、阿蘇大橋や、熊本城といった様々な被災の現場を見ていただくことも震災復興に繋がります。言葉は悪いですけれども、観光業界としては、1つの"売り物"になります。

ただやはり、そこには被災者の方がいらっしゃることを忘れてはいけません。引き続き、そういった方々への配慮もしつつ、観光にいらっしゃっていただいた方には、モラルを持っていただいて、「観光が復興の応援に繋がるんだ」という気持ちで見て欲しいというのが本音です。

― 地震がまたあるかもしれないという恐怖心とは別に、日本人的な配慮として、「被災地にカメラ向けて観光なんてとんでもない」、「被災者の方に申し訳ないから熊本へ行くのを遠慮しておこう」、という気持ちもあるんだと思うのです。しかし、観光客が来てくれることによって、経済的に復興を盛りたてる側面もある。そのバランスをどのように考えていますか。

村岡 今回の「ふっこう割」の目的は、まさにそれなんですよ。キャッチコピーが「あなたの旅が九州を元気にする」。それが全てです。

我々としては、本当に「来ていただくことで元気になるんです」と。直接的な経済効果だけではなくて、被災して疲れ切った方々にとっても励みになるということを伝えたいと考えています。物見遊山でも結構です。「来ていただくこと自体が、我々の励みになるんですよ」という想いを込めて「あなたの旅が九州を元気にする」というネーミングで走りました。

九州の魅力は「温泉」「食」「自然」そして「人」

― 今後の話を伺っていきたいと思います。「ふっこう割」は昨年12月28日で終了しましたが、これからお得に使える割引はあるのでしょうか。

村岡 「九州ありがとうキャンペーン」というものを「じゃらん」さん、「楽天トラベル」さんでご展開いただきました。仕組みはシンプルで、割引はありませんが特典が付いてきます。例えば、とある旅館に泊まったら、通常有料の温泉に無料で入れます、といったものです。つまりは旅館からの「ありがとう」なんです。

― 村岡さんは九州ご出身で、ずっと観光業に関わられていたということですが、九州に来たくなるオススメのポイントを色々と教えていただけますか。

村岡 機構の立場としては特定して言いにくいのですが・・・(笑)、九州の強みは「温泉」でしょうね。湧出量は日本一ですし、世界に誇れる観光資源だと思っています。

あとは「食」です。ただ、九州って産品が多すぎて「コレ」というものがないんです。多様性というのは強みであると同時に弱みでもあるんです。来た方は満足して帰られますが、何をメインでアピールしていくかということを、我々は問われているんですよ。例えば、麺にフィーチャーして「九州ラーメン紀行」というくくりにするとか。

そして「自然」ですね。先程の震災の話に戻るのですが、修学旅行が軒並みキャンセルになった理由の1つは、阿蘇に行けなくなったからなんですね。「世界一のカルデラ火山」は、修学旅行のみならずインバウンドなどにも欠かせないコンテンツなんです。

今回、震災で阿蘇に行けなくなったから九州への修学旅行をやめるというケースが目立ちました。私が地元だから気が付かなかったのかもしれませんが、阿蘇山は本当に有力なコンテンツなんです。海外からの観光客もそうです。台湾からのツアーで、福岡に入って、阿蘇を抜けて、別府へ行ってというものがあるんですが、阿蘇に行けないからと、今回のツアーは中止となってしまいました。

私の上司である高橋本部長曰く、「熊本城」と「阿蘇」は九州の観光コンテンツの2枚看板。エースである と。今は投手ローテーションからエースが2枚抜けたような状態なんですね。

さらに「人」も九州の魅力だと思っています。各県の個性が強いんです(笑)。「肥後もっこす」とか「薩摩隼人」と呼ばれるような各県独自の文化がありますよね。そこから醸し出される県民性が魅力だと思っています。

― 今後はどういった動きをしていく予定でしょうか

村岡 4月で震災から1年を迎えました。我々はこれをややネガティブに捉えています。「ふっこう割」があった反動で観光客が減るだろうと。

さらに4月以降、「ふっこう割」の反動減ともう1つ心配しているのが、風評被害の揺り戻しです。一周年ということで、マスコミから注目されることが、言葉は悪いのですが、寝た子を起こす危険性があるのではないかと思っています。

では我々が出来ることは何か。九州運輸局をはじめとする関係各位のサポートをいただきながら「九州からありがとうキャンペーン」を実施いたします。

具体的には、旅行会社さんや熊本県さんなど観光業界にかかわる官民が実施される施策・イベントに「共通ロゴ・キャッチコピー」を用いることで「1つの箱の中に入れて」「よりわかりやすく感謝の気持ちをお伝えしよう」という趣旨・目的です。

― 最後に九州への風評被害に対して、機構としておっしゃりたいことはありますか。

村岡 言葉飾らず申し上げると「100%安全です」とは言い切れません。これは九州のみならず、どこにもリスクは存在するのではないでしょうか。

ただ間違いなく言えることは、今、九州にお越しいただければ、我々は精一杯おもてなしをさせていただきますし、インフラ上の不備な点というのは、ごく一部を除けば無いと言えます。ですから残っているのは、ほとんどが風評被害だけです。

とはいえ阿蘇大橋も崩落したままですし、国道57号線も全面開通していません。仮設住宅に住んでらっしゃる方もいる。これが事実です。

ですから、「あなたの旅が九州を元気にする」のです。ふっこう割などで九州にお越しいただいた方々に心から感謝申し上げますと同時に、もっとお越しいただくことで我々は元気になります。そしてお越しいただいた方々にも元気を差し上げます。 それをアピールしたいですね。

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