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ジンもスタッフもブレンドして良さを引き出す。みんなで挑む日本初のクラフトジンづくり

ものづくり , グローバル , グローバル人材 , マネジメント , ヨーロッパ , 伝統 , 地域活性

写真/志津野雷 文/八木あゆみ

様々なバックグラウンドを持った日英のチームでつくりあげた、日本初の国産クラフトジン。その背景にある、ジンづくりに込めた想いをデービッド・クロール氏に伺った。

小規模生産でつくり手の個性を感じられるクラフトビールは、世界でブームを巻き起こしており、日本で見かける機会も増えた。そしていま、クラフトビールに次いで注目を集めているのが、クラフトジンだ。 

日本初のクラフトジンをつくっているのは、ジンの本場であるイギリス生まれのデービッド・クロールさん。日本での生活は20年を超えており、日本語も流暢に操る。そんなデービッドさんが、ビジネスパートナーのマーチン・ミラーさんと角田紀子さんと共に立ち上げたのが、THE KYOTO DISTILLERY ----京都蒸溜所だ。海外で人気が高まってきているクラフトジンを、日本初・京都初で外国人がつくるということ。デービッドさんに、クラフトジンに込めた想いと、京都で生まれた裏話を伺った。

季の美

国籍を超えたチームが挑んだ、国内初のクラフトジンづくり

ー 来日のきっかけ、そこから京都蒸溜所が始まるまでの流れを教えてください。

初めて日本を訪れたのは、大学卒業後にイギリスで就職した日本法人の金融関係の企業研修でした。研修後はイギリスで勤務していましたが、イギリスから日本へ転勤になり、東京で働きました。その後、1995年にその企業を退職し、「日本のウイスキーを母国に紹介したい」という想いから酒関連のビジネスに携わり2006年にお酒の輸出会社を東京で設立しました。そして2014年に、大好きな京都で、自分たちの手でオリジナルのお酒をつくろうと、酒造会社(株)Number One Drinksを立ち上げたのです。

どんなものを作るかさんざん考えた結果、国内になかったクラフトジンをつくろうと、オリジナルブランド「季の美」プロジェクトをスタートさせました。国産の洋酒が少ないという国内市場の現状と、世界的にクラフトブームが起きていたことも理由です。

はじめに、つくり手を海外から連れてこなければならず、現在のヘッドディスティラー(蒸溜酒製造の責任者)であるアレックス・デービスさんに声をかけたんです。アレックスがイギリスのジンメーカーで働いているときに知り合い、彼自身は日本に訪れた経験もなかったのですが、最初から積極的に話を聞いてくれて、2015年の12月から日本に移住しプロジェクトに参加してくれています。なんでもトライする彼の性格のおかげで今の生活も楽しんでいるようです。

小規模生産のクラフトジンとはいえ、ゼロからのスタートだったため、やることは山積みでした。水の質が素晴らしく、日本酒が有名な京都・伏見にほど近いこの場所で倉庫を買い取り、ドイツから輸入した蒸溜器をはじめとした設備を整え、いまの京都蒸溜所のかたちとなりました。そしてやっと2016年の8月に酒造免許が降りて、そこから3ヶ月間レシピを試し続け、10月中旬にようやく「季の美」が発売となったのです。

また、プロジェクトの中心メンバーとして、洋酒研究家である大西正巳さんも参加しています。彼とは15年ほど前から知り合いで、クラフトジンをつくると決めたときに最初に相談したのですが、とても興味を持ってくれて積極的にジンづくりに関わってくれています。大学で醸造・蒸溜学を学んだアレックスもとても知識がありますが、大西さんもその道のプロなので、20代と70代という年齢の壁を超えて二人はとても話が合うようです(笑)。

季の美

(左)デービッド・クロールさん、(中央)アレックス・デービスさん、(右)大西正巳さん

ー そんなプロフェッショナルたちが集まってつくりあげた、「季の美」の特徴とは?

まずベース・スピリッツには、ライス(米)・スピリッツを使用しています。一般的なジンはコーンや小麦を使用しますが、「季の美」のベースをライスにするということは、メンバーの満場一致で決定しました。ライス・スピリッツは値段が高いのが悩みどころではありますが、最終的には美味しさが決め手でした。仕込水には、名水百選の一つであり日本酒の仕込みにも使用される京都伏見の水を使用しています。そして何より特徴的なのが、「季の美」の風合いを決めるボタニカル類です。ジンのベースとなるジュニパーベリーやオリス、ヒノキに日本の特に京都産のボタニカルを加え、計11種類のボタニカルを使用しています。

ジンも人もブレンドすることで、より良くなる

ー ボタニカルには山椒、玉露など京都らしい素材もふんだんに入っていますが、これらを集める際に大変だったことはありますか?

当初、候補となる「季の美」用のボタニカル原料は、30種類をゆうに超えていたんです。これらの素材を組み合わせて、現在の11種類のボタニカルにたどり着くまでが本当に大変でした。山椒や柚子、玉露といった素材は海外では馴染みが薄いため、アレックスも最初は知らなかったのですが、京都のシェフたちが協力してくれて、風味や特徴を教えてくれました。

さらに大変だったのは製造免許ですね。ジンはアルコール度数の関係で危険物扱いになりますから、認可を取るのが難しいのです。役所としてもジンの蒸溜所に許可を出した経験はなかったようで、地元の企業の力も借りてひとつひとつ手探りで進めていったので時間も労力も要しました。そして、1年近く消防署や税務署、水道局に通い続け、ようやく製造の許可をいただけました。

ありがたいことに様々なルートで多くの素材や生産者とつながる機会がありますが、新しい開拓も忘れてはいません。例えば、88歳のおばあさんが栽培する京都綾部の柚子に加えて最近では蒸溜所近くの農家からも柚子や檸檬を手に入れることができました。その檸檬は京都らしいお香のようなかおりがするんですよ!

ー 地元の人たちとの交流も盛んですね。蒸溜所では他にも様々なバックグラウンドを持った人が働いていますが、どんな影響がありますか?

私は日本語、大西さんは英語が話せるので、これといって特に困ることはありません。京都じゃないエリアの出身の人、学生、外国人などみんな違うバックグラウンドを持っているからこそ、いろんな意見を出してもらえるし、いいことの方が多いと思います。

私たち全員に「良いものをつくりたい」という想いは共通していますし、この想いが共有できないのであれば、一緒にやっていくのは難しいでしょう。そこに、国籍は関係ないと思います。私たちに限らず、多国籍な環境で様々な人が一緒に働く際の壁は、言語だけではないでしょうか。

「季の美」は11種類のボタニカルをブレンドして、あのフレッシュな風味を生みだしていますが、京都蒸溜所そのものも、国籍や幅広い年齢のスタッフをブレンドすることで、相乗効果がでていると思っています。ジンも人も、ハーモニー良く混ざり合うことで良い部分を引き出しているのです。「季の美」のボトリング工程で働く方からも、普段から製品に関して色々なアドバイス、アイデアをもらっていますよ。

ー 「季の美」に対する、国内外からの反応はいかがですか?

「季の美」を飲んだ反応もちょっと違いがあって、日本人からは「新鮮だけど懐かしい感じ」、外国人からは「こんな味初めて!」といった反響をいただいています。同じジンでも、人によってどのフレーバーを強く感じるかの違いがあるのも面白い点ですね。海外ではアジア圏、ヨーロッパ圏、そしてアメリカで展開していますが、比較的ジンが生活に浸透しているイギリスでの反応が良いのも興味深いですね。

季の美

ヘッドディスティラーのアレックス・デービスさん

インスピレーションを表現する

ー なぜ京都の伝統を表現しよう、と思えたのでしょうか?

私が京都を大好きだから、というのが最初のきっかけです。ジンは基本的に世界中どこでもつくることができます。では、自分たちがつくるならどんなものを? と考えたときに、その背景にその土地のストーリーがある商品にしたいと思ったんです。そこがないと、日本初のクラフトジンとしての要素が薄くなってしまう、と。私たちのジンは、素材ひとつひとつに対してもストーリーを話せますし、そういったものを積み重ねて、深いものづくりをしたいと思ったからです。

京都の人が飲んで美味しいと言ってくれたら、すごく嬉しいですね。突然やってきた外国人が、このあたりの素材をつかって海外向けのジンをつくっている、というイメージをもたれてしまうと大失敗です。京都の人が応援してくれる商品でないと、素材のクオリティも落ちていくだろうし、いまのような商品をつくるのが難しくなるでしょう。

ボトルデザインにも、京都の伝統から得た要素を詰め込みました。スクリーンプリントされている模様は、江戸時代から続く唐紙屋を継承するKIRA KARACHO(雲母唐長)が文様監修しています。

季の美

日本初のクラフトジン「季の美」

ー デービッドさんは20数年前に来日し、東京で働かれていますね。東京と京都の違いはどのように感じていますか?

今でも東京には仕事で週に一度は行っていますが、京都の方が今は面白いと感じています。京都はコミュニティがまとまっているので、繋がるのも早く、東京と比べるとより、人脈の大事さを感じます。

あとは、老舗が多いのも特徴的ですね。十何代続く老舗なんてのは、ざらにあります。また、歴史や文化が深く、重厚な印象があることです。「季の美」のボトルにもINSPIRED BY TRADITIONと刻んでいるのですが、京都の伝統からたくさんのインスピレーションを得ています。ただ、ここで言うTRADITION には、京都だけでなく、つくり手の文化ももちろん含んでいます。もともとイギリスでメジャーなものであるジンに、私たちが感じるインスピレーションを詰め込んだものが「季の美」です。

ー 海外に行った際に、その土地からインスピレーションを受けることもありますか?

私は日本での生活が20年以上になりますが、ずっと日本で働くと、クリエイティビティの視野が狭くなるとは感じます。だから、年に数回はそういう狙いも持って海外にも足を運ぶようにしていますね。

世界中で好きな街を3カ所挙げるとしたら、京都、ベネツィア(イタリア)、エディンバラ(スコットランド)。それぞれ全然違う街ですが、歴史や文化が深い土地という点がよく似ているのが面白いんです。世界をフラットな目で見るためにも、インターナショナルな感覚は大事にしていたいと思います。

ー そういったインターナショナルな視野を持つためにも、大切なこととは?

オープンマインド(広い心)とフレキシビリティ(柔軟性)ですね。毎日同じものを見るのではなく、新しいインスピレーションを入れていかないと、考え方が固まってしまいます。たまには、快適な環境から出てチャレンジすることも必要だと思いますし、違う考え方に触れることは大切です。なぜなら、世界は非常に速く変化していて、これから先、その速度は更に増していくでしょう。テクノロジーによって、旅行はもっと簡単になり、世界的なビジネスはよりコンパクトになる。国境による壁はどんどん低くなっていくと思います。

その中で成功するためには、判断を下す前に多種多様な情報と意見を得ることが重要です。リーダーは持ちうる情報の中でベストな判断をしていくのです。そして、その判断が違った場合や状況が変化したときに、柔軟に対応していくことが大切だと思います。

ー 京都蒸溜所の今後の展望を教えてください。

今後も、ロンドンジンをつくるのではなく、ここでしかつくれない日本ならではのストーリーが詰まったジンをつくっていきます。あとは、3〜5割程度で見込んでいる「季の美」の販売数の国内比率をあげて、もっとたくさんの日本人に飲んでもらえればと思います。京都のクラフトジンとしてより浸透していけば嬉しいですね。

プロフィール/敬称略

デービッド・クロール

英国出身。株式会社ウィスク・イー 代表取締役CEO、京都蒸溜所創業者。金融業界を経て1998年世界の希少なウイスキーを日本で輸入販売する株式会社ウィスク・イーを東京に創業。ウイスキーのみならず、近年はクラフトビール、クラフトジンの魅力を日本に広めている。2016年には京都で初めてスピリッツの製造免許を取得し、同年10月京都初のクラフトジン「季の美 京都ドライジン」を発売。英国の酒類専門誌において「最も革新的な商品」の1位を獲得。


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