【前編】課題解決を生む「自然なつながり」studio-L山崎亮×リクルート麻生要一

【前編】課題解決を生む「自然なつながり」studio-L山崎亮×リクルート麻生要一

文:友光だんご 写真:佐坂和也(写真は左から山崎さん、麻生)

studio-Lの山崎亮氏とリクルートの麻生要一に聞いた、「人と人のつながり」の生み出し方とは

地域・高齢・医療・保育など、さまざまな分野で課題が山積し課題先進国とも言われる日本。これらの課題を解決するためには、オープンイノベーションや協働など「人と人とのつながり」が重要な要素だと認識が広がりつつある。

そんななか、地域コミュニティのデザインを手がけるstudio-Lの山崎亮氏と、リクルートで新規事業の開発に携わりながら「TECH LAB PAAK」を立ち上げた麻生要一は、「人と人のつながり」においてそれぞれ独自の手法で最適化を探っている。自然なかたちで人をつなぎ、新たな挑戦へと導いていく―--その方法と秘訣について伺った。

※本対談は2017年5月に行われました。本文中のプロフィールその他の情報は、取材時のものです。

コミュニティは人数よりも、強い意思をもった人が集まるかどうかが大切

ー 山崎さんは日本各地でコミュニティのデザインを手がける中で、「人と人のつながり」は意識されていますか?

山崎亮(以下、山崎) 大前提として、コミュニティ内の人同士がつながることは重要です。ただ、僕たちがいちばん大切にしているのは、住人が自分の町に能動的に参加することです。川が汚い、公園の設備が乏しくて人が集まらない、そんなときに町の問題を人任せにするのではなく、主体的になってアクションしてほしい。そのほうが人生はより面白いものになるはずですから。

麻生要一(以下、麻生) 参加した人同士のつながりが生まれるのは、ある種、自然発生的ということでしょうか。

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山崎 もちろん、ワークショップなどで参加者がつながるような仕掛けは意図的に作ります。ただ、つながることを必ずしも目的にはしていないかもしれません。なぜなら、一人でなにかを始めた人も応援したいからなんです。

例えば、立川の「こどもみらいセンター」のプロジェクトを行った際に、「艦隊これくしょん」というゲームが好きで、ゲームキャラのコスプレ衣装を作るワークショップをやりたいという人がいたんです。それでいざワークショップを開いてみたんですが、当時はまだゲームの認知度が低かったこともあり数人しか集まらなかったんですよ。

麻生 それでは盛り上がりに欠けますね。

山崎 いえ、それが盛り上がったんですよ。たった数人でしたがとても楽しそうでした。その姿を見て、100人集めて70%を満足させるよりも、たった数人でも100%満足させるほうがいいんじゃないかと思ったんです。

マイナーなことでも本気で愛する人が2、3人集まれば、その人の人生は豊かになるし、町を好きになる人が生まれる可能性もあるわけですね。

ー 人数の多寡が問題ではないと。

山崎 そうですね。はじめから「たくさんつながりを作る」というのが目的であれば、多くの人を集めようとするかもしれません。ただ、それでは個々の参加度が低くなってしまう可能性がありますからね。

マネタイズはずっと先の話。長期的な視点で社会に役立つコミュニティへと醸成していく

麻生 山崎さんの「つながることを目的としない」という話は、僕がこの「TECH LAB PAAK」を立ち上げるときに考えたことと共通する部分があって面白いです。僕の場合は、「なんの場所か定義しない」というやり方でした。

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テクノロジーをベースとし、社会課題解決に取り組むオープンイノベーション活動を支援する会員制コミュニティスペース「TECH LAB PAAK」

山崎 興味深いですね。「定義しない」とは?

麻生 最低限、いくつかの決め事はつくります。「社会を良くする取り組みを生み出す場所であること」「才能ある人の立ち上げの瞬間を応援する取り組みであること」「入居するのは、できれば技術やテクノロジーを使っている個人ないしチームであること」、これくらいです。

一般の企業なら、入居者の取り組みが「儲かるかどうか」を重要視するかと思いますが、TECH LAB PAAKでは一切マネタイズは問わないんです。

山崎 会社の事業である以上、何らかの形で入居者に見返りを期待することはないんですか?

麻生 TECH LAB PAAKは始まってまだ数年です。世の中を変えるようなプロジェクトは10年や20年かかるので、すぐに見返りは期待できるものではなく、評価判断はまだまだ先の話かなと思っています。

ただ、結果として、TECH LAB PAAKという取り組み自体を評価いただいて、この場所を応援してくれる企業や行政の方はいらっしゃるんです。彼らと関係ができることで、リクルートの事業に還元されるというメリットは生まれています。

山崎 新しい関係性を生み出しているわけですね。でも、はじめから関係性を作り出そうとはしていない。なぜなら目的を設定すると変わってしまうから。

「何のための事業だ? 利益はどうなんだ?」と問われたら説明できないわけで、通常の企業では真似できないでしょうね。

麻生 ただ、間接的には利益も生まれているんです。TECH LAB PAAKの取り組みを支援してくれる企業や行政機関がたくさんいて、彼らとのつながりは、リクルートの他のプロジェクトに還元されています。

山崎 なるほど、グループ全体で見ると、結果的に利益につながっているというわけですね。

やりたいことを「やりたい」と言える文化に

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ー ここで、「課題やアイデアの見つけ方」について伺いたいと思います。まず、リクルートで新規事業開発室の室長をつとめる麻生さんに、新たな事業のアイデアがどのように生まれているのかお聞きしたいのですが。

麻生 新規事業開発室が運営している「Recruit Ventures」というグループ横断の新規事業開発プログラムがあって、必ず「社員が言い出す」ことから始まるんです。何かアイデアを思いついたときには、「Recruit Ventures」に提案できるようになっています。4万人以上の社員がいて、応募には部署や所属を問いませんから、年間700件くらいの提案があります。 

山崎 かなりの数になりますね。

麻生 そうですね。ただ、僕たちが重要視しているのは、その数をどうやって審査するかではなく、いかに「こういうアイデアをやりたい!」と提案してもらうかなんです。

これが実に難しい。なぜなら社員はみんな本業があって日々忙しいわけです。新規事業というのは本業とは別です。そこで、僕の仕事は「本業も大切ですが、それ以外にも取り組むべき重要なこと(新規事業)があるんじゃない?」と後押しをすることなんです。

山崎 それは難しい。その部署の上司から嫌われそうだなあ(笑)。

麻生 リクルートの社員は、みんなが自分の仕事に価値を感じてやっている人ばかりなので、そんな人を"そそのかす"のは難易度が高いんです(笑)。普段からコミュニケーションをとって関係を築くことも重要ですね。

ー 「こういうアイデアをやりたい!」と言いだしてもらうために、具体的にどんな攻め方をしているのでしょう?

麻生 ワークショップ形式が多いですね。研修や勉強会、講演会などで人を集め、チームを作って話し合ってもらう。そこで仲間ができ、「楽しいね!」という雰囲気が生まれる。土壌作りが最初のステップです。

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山崎 なるほど、まず課題に取り組む「チーム」というつながりを作るわけですね。僕たちが地域でやっていることと近いです。ただ、ひとつ気になるのは、企業と地域でのワークショップにおける性質の違いです。

僕も企業に呼んでいただいてワークショップをするのですが、企業の場合ある種の業務命令として人を集めることができますよね。さらに、参加する人も仕事の一環という意識が強いから、アイデアの出る早さも質も素晴らしい。

一方で、地域のワークショップは仕事ではありませんから、集まりが企業に比べて悪い。さらにアイデアの出る速度も遅く、質もまあまあなことが多いです。ところが、いざ具体的にアイデアを実行に移す段階になると、急に反転します。

企業の方はせっかくいいアイデアが出ていたのに、各部署に戻ると上司に色々言われたりして、結局ほとんど実行まで進まない。しかし、地域の場合はゆっくりながらも、着実に実現へと向かうんですね。リクルートでワークショップを開く際には、どちらの性質に近いのでしょうか。

麻生 僕のやり方は、今おっしゃっていた「地域型」に近いです。業務命令で来させることはせず、むしろ上司を振り切って自主的に社員が来るパターン。

山崎 地域型のことを、企業のなかでやっているというのは興味深いですね。最初から業務の意識があるとうまくいかないということですね。

僕の活動の中でも、いかに「自発的に行動している」と意識してもらうか、ということは重要です。座ってもらう位置も参加者がわからない形で誘導したり、活発に意見が出るように、和気あいあいとした雰囲気づくりを心がけたり。

麻生 そのためには、普段からコミュニケーションをとって、つながりの種をたくさん蒔いておくということは重要ですね。

プロフィール/敬称略

山崎亮(やまざきりょう)
studio-L代表。東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)。慶応義塾大学特別招聘教授。

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。著書に『ふるさとを元気にする仕事(ちくまプリマー新書)』、『コミュニティデザインの源流(太田出版)』、『縮充する日本(PHP新書)』、『地域ごはん日記(パイインターナショナル)』などがある

麻生要一(あそう・よういち)
株式会社リクルートホールディングス R&D 新規事業開発室 室長

2006年、株式会社リクルートへ新卒入社。入社2年目に、社内新規事業提案制度「New RING」で準グランプリを獲得。2010年に株式会社ニジボックスを設立、2013年より代表取締役社長 兼 CEOとして約4年間ITベンチャー企業の経営を行う。2015年2月から、スタートアップ企業、研究者やイノベーターの活動を無償で支援する「TECH LAB PAAK」の所長も兼任する。現在は、2015年より着任した「新規事業開発室」(旧Media Technology Lab.)の室長として、複数の新規事業の発掘・投資・育成を一手に担当。

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