リーグを1つにし躍進を続けるB.LEAGUE。事務局長から学ぶ、確たる戦略とリーダーシップ

リーグを1つにし躍進を続けるB.LEAGUE。事務局長から学ぶ、確たる戦略とリーダーシップ

写真/佐坂和也 文/稲生遼(lefthands)

2つのバスケットボールリーグがB.LEAGUEとなって以降、ソフトバンクとの放映権契約などでリーグ売上10倍増など、大きく躍進を続けている。その躍進を裏で支えているのが、B.LEAGUE事務局長の葦原一正氏だ。

プロスポーツとしてサッカーや野球の人気の影に隠れがちだった、2つのバスケットボールリーグがB.LEAGUEとなって以降、ソフトバンクとの放映権契約などでリーグ売上10倍増など、大きく躍進を続けている。その躍進を裏で支えているのが、B.LEAGUE事務局長の葦原一正氏だ。

これまでコンサルティングファーム、プロ野球界などで培ってきたデータに基づくデジタルマーケティングのスキルを存分に生かし、その結果として今回の大成功を導いた葦原氏。周囲の協力を集め、戦略的に自身のビジョンを追求する葦原氏に、デジタルマーケティングを入り口に、リーダーシップについて伺った。

他のスポーツでなし得ないリーグ機能の統一が、B.LEAGUEならできる

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ー組織を解体して再構築するというのは並大抵のことではないと思うのですが、どのように実現へと導いていったのでしょうか。B.LEAGUEではいかにしてそうした可能性を結果に結びつけているのでしょうか。

葦原 もはや現代のビジネスにおいて一般的なことですが、データを重視しています。データドリブンは世界的にも主流になってきていますからね。プロ野球やJリーグを見ると、データの管理に改善の余地があると思います。バラバラのデータベースはもはや意味をなしません。B.LEAGUEでまとめて一つのプラットフォームをつくり、各チームがそのプラットフォームを使用するという仕組みをつくりました。

例えば、ある人がAチームの試合のチケットを買ったら、翌週その時と同じIDとパスワードで別のチームの試合のチケットを買うことができる。お客さんにとっても使いやすいですし、我々運営者側にとってもデータを集めやすいので、お互いにとって好影響なんです。

こうした統合データベースをつくったことは画期的で、伝統のあるプロ野球やJリーグで同じような仕組みを再構築するのはなかなか難しいことです。それらのリーグでは各チームの力がすごく強いので、リーグ側が統一しようとしても、協力を得ることは困難でしょう。各チームが自分たちで作り上げたプラットフォームを失うことは難しいからです。こうした問題は、一般企業間にも見られますよね。

ー統一プラットフォームの設置には、運営組織に加えて、各チームからの理解を得る必要があったと思います。どのようにして、各方面とのコミュニケーションをとっていったのでしょうか。

葦原 全体の理解を上手く得ることができた要因として、まずあげられるのはタイミングと勢いです。2つのリーグが1つになり、関係組織が刷新された。いろいろなことがまだ定まっていない間に、明確なビジョンを丁寧に提示することで、多くの人から理解をいただくことができたのだと思います。

「将来こういったカタチにまで、B.LEAGUEを盛り上げたい、だから統一のプラットフォームが必要です」と具体的な目標を伝えたことも、多くの同意を得られた要因かもしれません。そうすることで、全体の成功を第一に考えていただくことにつながりました。そもそも、バスケットボール界においては、各チームのトップの方々が個別最適ではなく、全体最適を考えてくださっていましたのでそこが一番のポイントだったと思います。

愚直かつ誠実な姿勢が信頼を築くカギ

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ー2シーズン目となる今年のリーグ開幕もまもなくです。今後バスケットボールを盛り上げるためにどのような施策を考えているのでしょうか。

葦原 目標はリーグ全体で250万人集客することです。初年度の集客数220万人を12%アップすると250万人。毎年12%のペースで集客を徐々に増やしていけば、2020年にはB1リーグ全試合で満席を達成することができるんです。大きく成長したいという想いはもちろんありますが、スポンサーや放映権などのBtoBの売り上げと違い、BtoCの集客を10倍、20倍に伸ばすことはそう簡単にいきませんから。12%の伸び率を、地道にどれだけ維持できるかが生命線です。

多くの人たちにどうしたら集客が伸びるのかといった疑問をよく投げかけられますが、金の斧なんてありません。"try and error"で、その都度マーケットの情勢に合わせて行動を起こしていくことが基本ですし、そういった地道なマインドを業界全体が持たなければなりません。トライし続けることが大事です。データも大事なのですが、データに踊らされて失敗した組織をこれまでたくさん見てきました。本当に大事なのはコツコツと"try and error"を重ねることでしょう。また、リーグ発足以来ずっと言い続けていることが、"BREAK THE BORDER"という言葉です。既成概念を壊していくような風土が重要でしょう。

ー既成概念にとらわれないために、どういった施策がありますか。

葦原 B.LEAGUEではバスケットボール協会が持つ、アマチュアを含めた全国の競技者のデータベースと、先述のB.LEAGUE所属各チームのデータベースとを統一し、ひとつのプラットフォームをつくりあげました。バスケットボールを普段からプレーしている人には、ぜひB.LEAGUEを観にきて欲しいですし、B.LEAGUEを観にきてくれている人にはプレーして欲しいですからね。

こうした統一プラットフォームの存在によって、さらに的確なマーケティングが可能になりますので、スポンサーさんからも好評です。BtoC、BtoBどちらの観点でもいい効果を生んでいます。ここまで統一した例は他のスポーツではないでしょうから、まさに"BREAK THE BORDER"ですね。最終的にはバスケットボールに限らず、スポーツ全体のデータベースを統一することで、スポーツ文化を更に盛り上げていきたいと思っています。

何よりもスポーツ文化を促進することが、中学生の頃からの私の夢です。夢や軸さえあれば、仕事で遭遇する面倒なことや嫌なことも、ディテールにすぎないと思えるのではないでしょうか。例えば上司と上手くいかないだとか、部下がついて来てくれないだとか、自分にとって大きな問題に思えることも、今は夢に到達するまでの過程にいるのだ、と考えると、そこに転がる小さな悩みに変わります。

私も日本のスポーツビジネス界を大きく変えていきたいという想いを持って、日々頑張っています。そうした夢や想いがなければ、目の前の些細な問題で目指すべき方向を自分自身が見失ってしまいますし、周囲の人もリーダーとして示している方向に付いてきてくれません。

先ほどはデータドリブンの話をしましたが、データが必ずしも万能というわけではありません。表層的な数字の分析だけが礼賛される時代はもはや終わったともいえるかもしれません。「こんな世界がつくりたい」、「自分はこんなことを実現したいんだ」といった想いの起点を設定することが、リーダーとして組織を率いる際に最も重要だと私は思うんです。その上で、客観的なデータなどを持ち出す。こうした、いわば「想いドリブン」を意識して今後も精進していきたいです。

プロフィール/敬称略

葦原一正(あしはら・かずまさ)

公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 常務理事・事務局長。1977年生まれ。早稲田大学院理工学研究科卒業後、外資系コンサルティング会社に勤務。2007年に「オリックス・バファローズ」、2012年には「横浜DeNAベイスターズ」に入社し、社長室長として、主に事業戦略立案、プロモーション関連業務を担当。2015年、「公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ」入社。デジタルマーケティングを推進し、男子プロバスケットボール新リーグ(B.LEAGUE)の設立、収益化に取り組む。


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