「大企業は新規事業に向かない 」 nanapiけんすう氏が成功しなかった理由

「大企業は新規事業に向かない 」 nanapiけんすう氏が成功しなかった理由

インタビュアー&文:永田優介 写真:三宅英正

リクルートOBでもある、 “けんすう”こと、株式会社nanapi代表取締役 古川健介さん。KDDIが発表した『Syn.』への参画、そして最近では非言語コミュニケーションサービス『emosi』リリースなど、常にメディア領域での話題を生み出し続けているけんすうさんですが、リクルート在籍中は新規事業を1つも成功させたことがなかったそうです。

そこで今回、リクルート時代の経験から学んだ新規事業を成功させるために必要なことについて、けんすうさんにお話をお伺いしました。

「ちゃんと仕事をサボれ」 KAIZEN須藤さんに働き方を教わった

― リクルート時代は、どんなことをされていたのでしょうか?

リクルートでは新規事業をいろいろやっていたんですけれど、最初は「ドコイク?」という、お出かけ情報の検索エンジンみたいなことをやっていて。同じチームにKAIZEN Platformの須藤さん(現KAIZEN Platform共同創業者兼CEO)とか、ジーニーの工藤さん(現 株式会社ジーニー代表取締役社長)とか本当に優秀な人ばかりで面白かったですね。

その時に働き方というのをすごい学んで、いまだに自分の働き方みたいなところには直結していますね。

例えば須藤さんに「働いている時間が長い」みたいなこと言われたことがあって。いざという時にバッファがないといけないから、ちゃんと仕事をサボれみたいな(笑)
たまにカフェとか行って3時間くらいずっと一人で考える、みたいなことやらないとダメだ、とか言われましたね。

― 実際に3時間くらいカフェに行ったりしてたんですか?

いや、あんまり。やっぱり行きづらかったですよね(笑) でも確かになぁと。

僕が辞めるっていうときの上司が須藤さんだったんですけど、「こういうタイミングなんだ」って話をした時もやっぱり、「タイミングだったら、それが一番重要だから辞めたほうがいい」っていう。他の理由よりもタイミングが一番大事だと。そういったことはよく言われてました。

上司からそういうことを言われるのって一般企業だと珍しいじゃないですか。でも結構適切というか、本質的なアドバイスが多かった記憶がありますね。

「なんでお前は自分の会社を持ってないの?」みたいな雰囲気 だった

― そもそもリクルートに入った理由は何でしょうか?

大学時代からネットサービスをやっていたり、会社の代表もやっていましたが、やっぱりビジネスを分かってないのでキツいなぁと。それで、ちゃんとしたところで学ぼうと思ったのがキッカケです。

そして、もともと情報のビジネスが好きだったんですけど、情報という切り口だけで展開する企業が当時はあまりなくて。実はリクルートみたいな会社が他には何もなかったんですよ。それで、とりあえずリクルートに入ろうかなと。

― とりあえず入ろうと。リクルートでこういうことをやりたい、といったこともなく?

そうですね、むしろ周りでも「リクルートの中でこれやりたい」みたいな人はあまり見たことがないですね。人生に対するミッションがある人は多いんですけど。農業変えたい、だから今リクルートにいる、みたいな人は多かったです。 あと「部長になりたい」みたいな人も、ほとんどいない。どちらかというと「何歳までには独立して」とか「3年で独立して」みたいな人が多くて。

入社時に同期から「どのくらいリクルートにいるつもりなんだ」と言われて、「いや、3年ぐらいはいようと思う」って話をしたらビックリされました。「なんで3年もいるの?」みたいな。

チャンスがあったらすぐ辞めるけど、今良い仕事できているんだったら長くいるみたいなスタンスの人がたぶん多かったんだと思いますね。

僕はやっぱり3年ぐらい働かないと根気がない人みたいに見えるのが嫌で、「3年はいよう」と思ってました。履歴書とかでこいつ1年で辞めている、みたいに思われるのは嫌だったので。

― なるほど ちなみにリクルート時代にロケットスタートを立ち上げられましたが、新規事業をやりながら実際どういった働き方をしていたのですか?

まず僕がいた部署とかは副業推奨みたいな雰囲気がありまして。「なんでお前は自分の会社を持ってないの?」みたいな感じだったんですよ。だから「つくった」っていうのが一つ。
あと働いて3年目の時は「もっといい働き方ないかなぁ」というのが自分の中であって。それで朝は家でやって、昼からはカフェでやって、昼過ぎぐらいから会社に行くみたいな働き方をしていましたね。

― なかなか自由な環境だったんですね。

そうですね、僕の部署は成果出せば比較的自由な雰囲気でした。だけど最終的にやっぱり会社には行ったほうがいいなと。

というのは、なかなか自律的に働ける人って少ない。あと会社組織でやる以上、顔を合わせてやる方が圧倒的にいいなと思いました。

会社が悪いとかじゃなく、大企業で新規事業やること自体が向いていない

― 当時携わっていた新規事業はうまくいっていましたか?

その当時携わっていたプロジェクトを、僕は成功させられなかったんですよ。一つも成功しなかった。例えば僕はホットペッパーでお店探せなくて、一緒にいく人が好きそうなお店を選べる「サグルメ」というのを作ったんですよ。リリースして1日目でもう「やべえな」って思いました。速攻ダメでしたね。

だけど、「これは僕が悪いんじゃないな」と思って。会社が悪いわけでもなくて、大企業が新規事業をやること自体、たぶん向いていない。こう言うとなかなか角が立つんですけど、そうですね。

よくネット業界で騒がれるベンチャーなんかも、事業モデルって最初のやつしかあたっていなくて、他は上手くいってないと。新サービスって大体買収しているものだったりするので、社内から新しい事業はほとんど生まれていないと思うんですね。なので、いま振り返ると、「まぁ、上手くいかないよね」と。

成功するかどうかのポイントって「企業文化×サービス」なんですよね

― なぜ大企業は新規事業に向かないのでしょう?

そもそも新規事業なんて成功しないというのが基本で、「たまたま当たった」なんていうマグレは生み出せないと思っています。可能性は高められるんだけど、いろんな要素が絡みすぎている。

ただ、ひとつ大きいのは「会社の文化」みたいな点と、「サービス」がマッチするかで当たる、当たらないかが決まるんじゃないかと思っています。
ベンチャーのほうが新規事業に向いているのは、ベンチャーはサービスと会社が一致しているところから始まるので、会社文化とサービスがきちんと一致しているのだと思うんです。

ただし、すでに大きくなった企業は、文化が固定されてしまっているので、難易度があがると思うんですね。
この人がこのサービスをやるから当たる、というのがあっても、人も組織も決められている中で新しいサービスを当てるというのは、すごく当たる可能性のパーセンテージを減らしてしまう気がしていて。難しいなと。

― nanapiで新しいサービスを立ち上げるときに意識されていることは何かありますか?

新しいサービスをやるときは、いろんな人にやらせても無理だなって最近思ったりしますね。サービスできる人しかサービスを立ち上げられないと思っているので、仕事として振るというよりは自発的にやりたいっていう人を伸ばすイメージです。
でもやっぱり、基本はその会社にあったサービス以外は当たらないじゃないかなと思います。nanapiらしいサービスって何かと聞かれると、難しいんですけどね(笑)

みんなの関心がないくらいの方が成功するのかなと

― 学生時代からご自身でサービスを作ってやられていましたが、自分でやるのとリクルートで新しいメディアやサービスをつくるのはどう違いがありましたか?

新規事業って議論しても生まれないんですよ。ほぼ一人二人くらいでやった方が、結果当たるんです。なぜなら考えて議論して出るようなものって、もうやられてしまっているんです。
だから非合理でないといけないんですけど、合理的でない判断ってやっぱり会議からは生まれづらいので難易度は高いですよね。本当に頭使ってやるんだったら、それこそマッキンゼーとかの力を集結して、iモードみたいな立ち上げ方をしないといけないので。

― たしかにInstagramとかも二人で始まってますもんね。

そうなんですよね、InstagramもSnapchatも大企業がゼロからやろうとしいてたら、やっぱり出てこなかったと思います。
だからアドテクのプロの工藤さんとか、須藤さんみたいなすごいメンバーとか、プロダクト作れる人とかが集ったイケてるメンバーでもまったく上手くいかなかったというのは、今考えても、超面白いなと思います。

― そういうイケてるメンバーでも、上手くいかないと。

とにかく話がまとまらないんですよ。でも、みんなその後偉くなっていったり、起業して上手くいっているので、何でしょうね(笑)
相性の問題でも何でもなくて、こういう構造なんだなと。どんな会社でもそういう集まり方したら多分うまくいかないのかなと思いましたね。

ニコニコ動画も当初ドワンゴさんの中ではすごい辺境の、「ニコニコ動画なんて」みたいな扱いだったから上手くいったみたいな。そのくらい、みんなの関心がないくらい方が成功するんじゃないかと思ったりします。

「時代待ち」 自分たちの努力で何とかしようとするのは傲慢だなと

― サービスの部分はいかがでしょうか。サービスを成功させるポイントとは?

インターネットサービスでありがちなんですけど、二段階踏まないといけないと思っていて。一段階目は「ユーザーに受け入れられるか」どうか。そして二段階目で「マネタイズがちゃんと出来るのか」どうかなんですね。
雑誌って売れれば売れるだけ売上が上がるんですけど、ネットってPV がたくさんあっても広告がつかないと儲からなかったりするんですよ。

サービスを成功させるポイントってこの2つかなと思っています。そして一つめの「ユーザーに受け入れられるか」でいうとサービスをリリースした瞬間の反応が大切で、いまいち盛り上がらないものってやっぱり後からでもダメだったり、リカバリがそんなに利かないんですね。そもそもニーズがないので。

そして二つめの「マネタイズがちゃんと出来るのか」でいうと、自分たちの努力じゃないところでいけるかどうかというのを重要視しています。

― 自分たちの努力じゃないところですか?

はい、僕は「時代待ち」って言っているんですけど、例えばスマートフォンのメディアって、今の時点ですごい頑張ってPV集めても、そんなに儲からないんですね。
なぜなら広告主がまだ少なかったりするから。ただ、スマホ広告市場は必ず伸びていくので、2年間やり続けると、2年後には自分たちの努力じゃないところで単価が倍になって収益も倍になります、みたいなことが起きるんです。

だから最近、自分たちの努力だけで何とかしようとするのは傲慢だなと思っています(笑)
世の中とかユーザー の動きに合わせないといかんなって感じですね。

― 時代待ちとなると、もどかしいですね。

なので、やっぱり未来から逆算することは大切ですよね。
「ドコイク?」をやっていた時って、何とかしようと頑張っていたんですけど、適切な努力じゃなかったなと。無駄とは言わないんですけど、全てのジャンルのお出かけ情報を探すために、パソコンを使って検索するみたいなサービスって未だにないじゃないですか。

つまりニーズがないというよりかは、時代がまだ追いついてなかったなと思うんです。テクノロジーとかでまだ解決されていないからで、いくら頑張ったとしても出来ないものは出来ない、というだけ。
それであれば半歩先とか、ちゃんと実現できるものをやったほうが良かったなと思います。

「時代持ち」というのは、結局タイミングが重要なので。時代を無視して努力に頼っちゃたらいかんと。「適切なタイミングで、適切な努力をする」というのは当たり前なんですけど、やっぱりそこですよね。

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