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スマート農業が切り拓く新たな市場へ〜テクノロジーによって変わる農業のいまとこれから

クリエイティブ , ソーシャル , テクノロジー

文:江口晋太朗

テクノロジーの進化は、ものづくりや非IT分野においてもさまざま形でデジタルシフトを起こしている。このシリーズでは、ITによって変化を起こしているさまざま分野を掘り起こしていく。

日々の生活のなかで、欠かせないものの一つである「食」。その根本を担う農業の現場が、いまテクノロジーによって変わりつつある。

近年では農業従事者の数は減少しており、また農業関係者の高齢化も進んでいる。農林水産省によると、2016年2月時点の農業従事者は約192万人で、担い手のほぼ半分を70歳超の高齢者が占める。体力的な面から高齢者の離農も進んでいるという。このような状況にある農業が大きく変わろうとしている。きっかけは、2009年の農地法の改正だ。

法改正により、株式会社を含めた新規参入による規制を緩和し、農業を強く、儲かる魅力的な事業へシフトさせようとしている。食料自給率の向上や、農業従事者の高齢化や担い手不足の解消のためには、ITの活用を通じた高効率な農業への転換は必須といえる。

例えば、屋内施設での栽培において、湿度やCO2などを測定し、環境をコントロールすることで計画的に農作物を育てる技術や、生産者の情報を消費者に知らせるサービスなどが登場してきた。センサーやクラウドなど、テクノロジーを活用して生産性の効率化や農作物の高付加価値化を目指す取り組みは、「スマート農業」と呼ばれている。

矢野経済研究所が発表した「スマート農業に関する調査結果2015*」によれば、ITを活用した栽培支援や販売支援、経営支援、精密農業技術を通じて、高い農業生産やコスト削減、食の安全性や労働環境の向上を実現するためのサービス・製品は、2020年度に300億円以上の市場規模になると推測されている。

こうした、スマート農業の領域にチャレンジするベンチャーも増えてきている。以下その事例を紹介する。

農地情報を可視化することで農地の効率化を図る

農地を運営する人にとって、農地情報を把握することは経営的な視点からみても重要だ。どのような農薬を、いつ、どれくらい使ったかといった記録は、これまでアナログや経験を頼りにしていたが、データ化・アーカイブすることで、農作物の改善につなげることができる。

アグリノート」は、地図データや航空写真を利用し、ネット上で農業日誌や圃場(ほじょう)の管理が行なえるクラウド型農業生産管理ツールだ。スマートフォンやタブレット端末を使い、作業の進捗や育成状況などを現場で農作業をしながら記録でき、圃場ごとに農薬や肥料の農薬別・成分別の使用回数が自動集計される。

さらに、農薬の情報は流通業者を含めた関係者間で共有でき、独立行政法人農林水産消費安全技術センターが提供する農薬データを用いることで、成分レベルでの把握が可能となる。自動集計された生育記録をグラフ化することで生産計画の策定にも役立ち、過去のアーカイブをもとに長年培った勘と経験をデータで可視化することが可能となる。ノウハウの見える化で、次の担い手や他者への情報共有もしやすくなるだろう。

農地情報を可視化することで農地の効率化を図る

KAKAXI

「KAKAXI」は広角カメラが農地を定期的に撮影し、タイムラプス映像としても出力が可能。

農作物は、生産者が丹精こめて育てた製品。だからこそ、自分が食べているものをどこで誰がどのように作ったのかを知りたいと思う消費者は多い。

KAKAXI」は、農業用デバイスをもとに消費者のスマートフォンのアプリを経由して情報を届ける仕組みを開発・運営している。デバイスには日照計、雨量計、温度や湿度の測定機、3G通信機能、カメラが内蔵され、データの収集とともに写真の撮影を行う。収集したデータとともに、撮影した写真をタイムラプス映像へと加工し消費者のアプリへ配信。過去の情報などもウェブ上で確認することができる。

消費者は、自身がフォローする生産者の農園の情報や、生産者の投稿を閲覧したりコメントしたりすることができ、消費者と生産者の距離を近づける。消費者にとっては作り手の様子がわかることでの安心安全を提供し、生産者にとっては消費者の声からフィードバックを得ることができる。

こうした農家と消費者をつなぎコミュニティとする活動の一つに、米国ではCSA(Community Sup-ported Agriculture)と呼ばれる農業形態がある。消費者が生産者と直接やりとりし、一定の費用を支払って定期的に新鮮な野菜を届けてもらう仕組みだ。日本にも、食のつくり手と消費者を直接繋げるサービスとして「ポケットマルシェ」がある。「ポケットマルシェ」はCSAでの課題とされている物流の部分に、大手物流会社と協力することで対応している。同サービスはKAKAXIとも連携しており、つくり手の見える化を通じて、誰の、どんな農作物を食べたいかを選ぶことを可能にしている。

最新の印刷エレクトロニクス技術で、水資源問題を解決する

農地自体の情報をセンサーなどで把握する最新技術も登場している。「Sensprout」印刷エレクトロニクス技術を活用して土壌モニタリングを行うデバイスだ。静電容量の変化を検知できるセンサーで土の中の水分量と温度を計測することを可能にする。

印刷エレクトロニクス技術とは、植物の根の部分に導電性のインクで電子回路を印字することで、土壌水分量と温度を測定する仕組みだ。銀ナノ粒子インクカートリッジを開発している「AgIC」のプリント技術を利用することで、市販のインクジェットプリンタに銀ナノインクを装填し、タッチセンサーやアンテナ、回路基板を専用紙に印刷できる。

印刷技術をもとにしているため、小ロットから大量生産までを低コストで製品化できる。メンテナンスコストも最小限に抑えられるほか、電池の液漏れによる土壌汚染の恐れもない。大規模農業や高付加価値作物の灌漑(かんがい)の最適化のほか、いつ起きるかわからない地すべりやがけ崩れといったリスク評価での応用も期待されている。

センサーや導電性のインク技術をもとに土壌のデータをモニタリングし、それらをネットワーク化することで、水資源問題の課題である農業用水の削減と最適化にも挑んでいる。土壌データというこれまでにない新たなデータを活用し、水資源を無駄にしない精密な農業を可能にしている。

KAKAXI

土壌データをモニタリングする「Sensprout」

農業データを活用した新たな保険サービス

スマート農業の分野では、日本だけでなく世界中で技術開発が進んでいる。特に、米国では広大な土地を活用しいかに効率的に高付加価値な農作物を育てていくかが課題であり、多くの農業ベンチャーが生まれている。元グーグル出身者らが2006年に設立した「Climate Corporation」は、降雨量や土壌の質など気候に関するビッグデータ分析を専門とするベンチャーだ。気象情報や行政が保有しているデータを活用し、新たな農業ビジネスを開発。それが、農業関連の「保険」サービスだ。

250万ヶ所気象測定データと1500億ヶ所の土壌観察のデータを組み合わせることで、膨大な気象シミュレーションを実施。リアルタイムでデータを利用して農地のリスク算定を行い、個々の生産者に最適な保険価格を決定している。つまり、通常であれば収穫できる一定量の農作物とそれをもとに得る収益に対し、冷害や気候変動などによって作物量が減少した際に、保険が適用され収入を確保することができる。

気候や天気といった自然に左右され、膨大なリスクがあった農場経営。データを通じてリスク算定を行い、適切な保険を開発することで、そのリスクを最小限に抑えることができるようになった。データサイエンスと農業という、いままでつながっていなかった分野が連携することで、新しい市場が生まれた例といえる。

農業のIT化の先にある、経営視点を持った次なる農業の確立へ

前述した矢野経済研究所の調査では、2016年度以降、農業機械作業データの標準化やデータ情報の共有化が実現することで、さらなる市場拡大が予測されている。

農家はつねに膨大なデータと向き合う業種だ。販売台帳や商品データ、顧客データの管理、栽培記録、栽培計画をもとに1年間で最も効率よく高収益を確保するために品目を精査しなければならない。気候や天候などの自然のデータ、農地の土壌データや肥料などの散布データ、農作業用の資材管理データなどありとあらゆるデータを駆使し、はじめて農作物が完成する。

膨大なデータを効率よく管理し、デジタルが担うべき部分と、アナログであるべき部分を明確にすることで、効果的な施策や、なにを自動化・デジタル化すべきかを考えることができる。そこから各農家の個性や強みを活かし、より良い農業が生まれてくるのではないだろうか。

また、経営規模が拡大することで人材確保や雇用就農者の育成、人材の質的向上や組織体制の確立など、マネジメント視点を持つことも求められてくる。経営規模に合わせた設備の導入はもちろん、農業関係の技術水準の向上や新技術の導入も欠かせない。

農業のIT化の目的は、農地の見える化による効率化、高付加価値化だけではない。経営視点を持った農業従事者を増やすこともまた、IT化推進の根底にあるといえる。

*(出典元:スマート農業に関する調査結果 2015

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